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番外編『愛すべき贈り物』70

雅紀は叫んで暁にしがみついた。暁は優しく宥めるように背中をさすってやる。 「もう大丈夫だ。どっか怪我してねえか?痛いとこは」 「ごめんなさいっお、俺っ心配、迷惑、かけてっごめんなさいっ俺っ」 興奮気味に舌をもつれさせる雅紀の頬を、両手で包み込むと、暁はそっと唇にキスを落とす。 「ばーか。なんでおまえが謝んだよ」 ずっと縛められていたせいで、雅紀の口の端には、革の食い込んだ跡がついていた。見てるだけで痛々しい。暁は顔を歪め、雅紀に頬擦りした。 「怖かったよな。ほんとにごめんな」 「謝んないっで、暁さん、悪く、ないからっ俺がっお、俺」 「おまえ、怪我ねえのか? 痛くねえか?」 「ううん。だい、じょぶ。へいき」 雅紀の身体は、さっきからずっと小刻みに震えている。こんな酷い目に遭ったのだ。大丈夫なはずがない。 ……くっそ。祥悟の野郎っ この部屋に飛び込む前に、大迫が店のオーナーから聞き出した情報を、手短に説明してくれた。 さっき、大迫と黒服が無理矢理部屋から連れ出したのが、この店の会員の但馬克実。祥悟と雅紀はそいつの連れとして入店したらしい。最初の予約では連れは祥悟1人だけで、雅紀の来店は予定外だった。 ってことは、雅紀は祥悟の巻き添えになっただけだ。この店が提供している、かなりえげつない内容のサービスについても、かいつまんで説明された。 真っ暗な室内では、部屋の様子はほとんど分からなかったが、さっき電気がついた瞬間、雅紀が全裸なのは気づいた。咄嗟に着ていたジャケットで、雅紀の身体を包んでやったが、服を脱がされていたということは、あの但馬という男の指示で、何か酷いことをされた可能性があるってことだ。 ……ちきしょうっ。あの男、ぜってぇ許せねぇっ。 「あの……。お取り込み中、悪いんだけどさ……。俺のことも、少し、構ってくんない‍?」 背後から途切れ途切れの声がして、暁は雅紀を抱き締めたまま振り返る。すぐ後ろに、だるそうに横たわる祥悟の膨れっ面がある。暁はぎりっと目を吊り上げた。 「祥悟……てめえ……よくも雅紀を巻き添えにしやがったな」 地の底から響くような暁の唸り声に、祥悟は気怠げに首を竦めた。 「……ごめん」 「謝って済む問題かよ! おまえのせいで雅紀は……っ」 「暁さんっだめっ」 腕の中の雅紀が悲鳴のように叫んでもがく。 「俺が、勝手に、ついてきただけっ。祥悟さん、悪くないからっ」 雅紀の身体の震えが酷い。とりあえず、祥悟への文句は後回しだ。暁は雅紀の柔らかい髪を優しく撫でて 「分かったよ。話は後だ。とにかく服着てさ、ここ出ような」

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