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番外編『愛すべき贈り物』72
「なあ、雅紀。祥悟とは偶然会ったのか?」
なるべく穏やかに問いかけてみると、雅紀はこくんと頷いて
「暁さんのホテルに向かってたんです、俺。で、途中で祥悟さん見かけて……」
「追っかけちまったのか」
責めるような言い方はしていないつもりだったが、雅紀はぴくんっと震えて項垂れた。
「……ごめんなさい……。見失ったら、マズいって焦っちゃって……。でも、すぐに暁さんに連絡するべきでしたよね」
萎れきって俯いている雅紀の頭を、暁はわしわしと撫でて
「んーとな。確かに連絡くれればって思ったけどさ。でもそれは結果論だよな。雅紀はその時自分に出来るベストを尽くそうって、頑張ったわけだよな?祥悟について行って、まさかあんな事態になるなんてさ、俺だって想像つかねえよ」
雅紀はそろそろと顔をあげ、潤んだ瞳で暁を見つめた。
「んな顔すんなって。食っちまいたくなるだろ。俺は全然怒ったりしねえよ、雅紀。おまえは精一杯頑張ったんだ」
「でもっ。でも俺、祥悟さんのこと、助けてあげられなくて」
「あのな、雅紀。おまえが祥悟について行かなかったらさ、あいつはまだ行方不明のまんまだったよな。下手するともっと酷い目に遭って、取り返しのつかねえ事態になってたかもしんねえだろ?」
「……暁……さん……」
「おまえのおかげで、最悪の事態は避けられたんだ。な? 雅紀。おまえは役立たずなんかじゃねえよ。祥悟だってそんなこと思うわけねえぜ」
雅紀はぐすっと鼻をすすり、暁の身体に抱きついた。
「暁っ」
「お。来たか、里沙」
「ごめんなさい。遅くなって。祥悟は?」
「さっき処置室から出てきたばっかだ。鎮静剤打ってもらって、今は寝てるぜ」
暁に手招きされて、里沙はベッドの側に駆け寄った。
病室のベッドでは、白い顔をした祥悟が、穏やかに寝息をたてていた。
医者の診断では、複数の薬と酒のせいで極度の興奮状態にあり、肛門の奥に裂傷があったが、それほど酷い状態ではないそうだ。使われた薬の副作用についてはある程度は推測出来るが、成分を詳しく分析してみないと、今の時点では判断は出来ない。経過を見守って、何か症状が出た時点で対処するしかないとのことだ。
里沙は暁の説明に青い顔をして頷き、ベッドの横の椅子に座って、祥悟の頬にそっと手をあてた。
「それじゃあ、祥悟は誰かに暴行されたのね? いったい誰が……どうしてそんな……」
里沙の呆然とした呟きに、暁は雅紀と顔を見合わせた。
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