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第23章 たゆたう月舟1

「ん……」 雅紀の視線がひどく遠い。ちょっと心配になってきて、余韻にびくつく身体を、暁はそっと撫でた。 「なあ、ほんと大丈夫か、雅紀」 暁の不安そうな問いかけに、雅紀はようやく焦点を合わせ、ほんわりと微笑んで 「ん……俺……いっ…ちゃった……みたい…」 暁はほっとして、雅紀の頭をくしゃっとかきまわし 「そっか。イっちゃったのか。なんかおまえ今さ、すご~くいい顔してるぜ。こっちまでいい気分になれそうな感じ」 暁は刺激しないように、慎重に自分のものを引き抜き、雅紀を優しく仰向けにすると、ぎゅっと抱き締めた。 「あき……らさん…?」 「んー?」 「まだ……イってない……でしょ…う?」 「いいよ、俺は。おまえのその顔見れただけで、何かもう満足」 「…っでも…」 雅紀はまだびくついて力の入らない身体をよじり、弱々しく手を伸ばして、暁のものに触れようとする。 「だーめ。これ以上入れたら、おまえほんとに腰たたなくなる」 暁は雅紀の手を掴んで、シーツに縫いとめた。 「このまんまさ、お互いおさまるまで、なんもしないで抱き合ってようぜ」 「んー…」 暁のものがまだ硬いままなのを、触れた身体に感じるのか、雅紀は納得ゆかなげに身体を揺すった。 「なに、その不満顔。ほんとはさ、さっきだってもう、入れないつもりだったんだぜ。アナルってさ、入れられる方の身体の負担、きついんだろ?」 「……ん、じゃあ……手で……する…から」 「こら~口とんがらせて、そういうこと言わない。目がとろんとしてるぜ。おまえ疲れてるんだよ。少し眠りな。だいたいさ、今日で最後ってわけじゃないんだから。続きはまた明日、しようぜ」 雅紀のとがらせた唇に、ちゅっとキスしてから、暁はちょっと悪い顔をして笑うと 「明日はもっと苛めてやるよ。ひーひーよがらせて、あんあん泣かしてやる」 途端に雅紀は眉をひそめた。 「あきら……さん……それ、おやじくさいってば…」 暁に宥められているうちに、やはり疲れたんだろう、雅紀はいつのまにかうとうとし始めた。 穏やかな雅紀の寝顔を、暁は満ち足りた気分で見つめた。 ……不思議だな……。抱いた後で、こんな穏やかな気分になるのって、初めてだ……。 女を抱いている時も、最中は気持ちよかったし、入れて出せばすっきりもした。 特に、今日会った里沙とは、身体の相性もよくて、多い時は月に何度も抱き合った。だが終わった後はお互いさばさばしていて、事後の睦みもそこそこに、シャワーを浴びて、ホテルの外でバイバイが常だった。 セックスなんてそんなものだと思っていたし、抱いた後でベタベタしたがる相手とは、なんとなく面倒でその後は会わなかった。 ……つーか。こいつ相手だと、俺の方がベタベタしたがってるし……。 入れなくても、出さなくてもいいから、ただ優しく触れていたい。何もしなくていいから、ずっと寄り添っていたい。自分がそんな気持ちを抱くようになるなんて、かなり驚きだ。 ……ひょっとして、運命の相手……とか言っちゃう?……俺の小指、こいつと繋がってたのかよ……。 自分の小指の見えない赤い糸を見つめて、ちょっと照れ臭くなって、独りでにやにやしてしまう。 ……仕方ねえよな。男だけど、こんなに好きになっちまったんだからさ。しかも身体の方の相性も、今までで一番いい気がするし……。 雅紀とのセックスは、肉体的により、精神的に満たされる方が大きい。もちろん、今まで感じたことのないような快感もあるが、自分がよくなりたいよりは、雅紀を感じさせてやりたい。 ……運命の相手っつーか……これって、俺の初恋なんじゃねーの? これが恋ってヤツならば、暁が記憶している限りでは、多分初めての想いだ。 「うわぁ……やっぱ恋する乙女かよっ俺」 眠る雅紀の横で、百面相をしながら、暁は独り赤面してじたばたした。 「でもいいな……こういうの」 ろくでもないと思っていた、こんな自分の人生でも、心から好きだと想える人と出逢えた。奪われてしまった、過去の大切なものは、もう取り戻せないとしても、また大切にしたい存在が出来た。 ……なあ俺、今、幸せだろ?昔の幸せと比べて……どうだ? 暁は、雅紀の髪を撫でながら、答えの返らない問いかけを、自分自身に向けて、心の中で呟いてみた。 たゆたう水面に浮かぶ舟のように、ゆらゆらと揺らめく優しい微睡みの中で、雅紀は、哀しみも不安も苦痛もない、幸せな夢を見ていた。これは夢だとわかっていて、それでもすごく幸せだった。 ……ねえ……暁さん……聞いてくれる?俺の話。 暁さんならきっと……わかってくれるよね……。 俺ね、ほんとは… 「……いや、なんとなく気になるんですよね。………そう。情報いろいろ隠してるっぽい感じで。………や、分かってますって、社長。俺ご指名なのは。だけどいきなり東北って。こっちにもいろいろ都合ってもんが………」 

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