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番外編『愛すべき贈り物』92
雅紀の目がす……っと細くなる。ちょっと聞いただけなのに、妙に声が上擦り焦りまくる暁を、じと……っと睨んで
「だって……祥悟さん……言ってたし」
「っ何をだよ? おまえさ~。祥悟の言うことなんか間に受けんなよ。あいつ、あることないこと言いやがって……」
「君が女の子だったらさ、俺、マジで惚れてたかもな」
雅紀の口から飛び出したセリフに、暁は顔を引き攣らせた。
「やっ、待て、そ、それはだな」
「ちなみに俺、男抱くのは初めてだけどさ、君みたいな美人だったらいけるかもしんねえな。どう? 俺と寝てみる?」
雅紀の口からすらすらと飛び出したセリフには、覚えがある。多分……いや、間違いなく、自分が女装した祥悟を口説いた時の……。
暁は反論しようとしたが、口がぱくぱくするだけで、言葉が出てこない。
そこまで正確に、俺が言った口調まで真似られるってことは……
「あんのやろっ。録音してやがったな?!」
思わず口から出た言葉は墓穴だった。やべえっ。自分が言ったって、うっかり認めちまったじゃねえか。
暁は慌てて口を塞いで、雅紀の顔を恐る恐る見た。雅紀はまったくの無表情で、黙って暁を見つめている。
「…………」
「…………」
そのまましばらく、いや~な沈黙が続いた。
やばい、やばい、やばい。
表情豊かな雅紀が、何の感情も出さない無表情ってのは、相当怒ってる証拠だ。暁は内心動揺しまくって、何か言い訳の言葉を必死に探した。
『前に言ったじゃん。俺、すっげー荒れててさ。女片っ端から口説いてたんだってさ。あ……祥悟は女じゃねえけどな』
や。これじゃヤブヘビだろ。
『昔のことだよ、雅紀。今は俺、おまえ一筋だって、もちろん分かってくれてるよな?』
うわぁ……なんかめっちゃ誤魔化してるだろ。誠実とは程遠いっつの。
あわあわしながら言い訳を探していると、雅紀の目がだんだんすわってきた。……やばい。っつーか……怖い。
「たしかにっ。そのセリフ言ったのは俺だ。俺は女装したあいつ、口説いたことあるぜ。それは認める。でもさ。あん時は祥悟が……」
必死で説明しようとする暁の口に、雅紀は人差し指をぴとっと押し付けた。
「分かってる。祥悟さん、暁さんに本気で迫ったけど、結局抱いてくれなかったって、言ってたし」
暁は目を見開いて、雅紀の手を口から外してぎゅっと握り
「んだよ、脅かすなって。んじゃ、なんで祥悟と寝たことあるか、なんて聞くんだよ?」
雅紀は暁の目をじっと見つめたまま、上にのしかかった。
「祥悟さん、言ってた。あの頃の暁さん、女なら誰でもいいってくらい節操なしで、来る者拒まずって感じだったって」
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