544 / 605
番外編『愛すべき贈り物』93
真剣な表情で、そんなにじっと見つめて言わないで欲しい。
祥悟の言ってることは嘘じゃない。あの頃の自分がどんだけサイテーな男だったかは、ちゃんと自覚している。
でも、それは雅紀と出逢う前のことで。
情けない言い訳に過ぎないけれど、自分なりに理由もあって。
……いや。やっぱ言い訳だよな。
不誠実な男だと思われるだけのことはしてきたのだ。雅紀が自分のことを信用出来ないと思ったとしても、それを責める資格はない訳で。
「ごめん。雅紀。確かにな。俺は節操なしのいい加減な男だった。誘われれば誰とでも寝てた。祥悟の言ったことは本当だ。ごめん」
暁は自分を見下ろしている雅紀の目を真っ直ぐに見つめた。過去の過ちは消すことが出来ないけれど、これからの自分は変えていける。というか、もう自分には必要はないのだ。行きずりの、現実逃避の為の恋なんて。
「信じてもらえねえかもしんねえけどさ。俺はもう……」
「来る者拒まずで誰とでも寝たけど、どの人とも多くても2~3回会って終わり。長続きはしなかったって」
「……う……。そう……でした」
相変わらず、雅紀の顔には何の表情も浮かんでいない。人形のような冷たく整った美貌で、心の奥まで覗き込んでくるような真っ直ぐな眼差し。
「長続きしたのは唯1人。里沙さんだけ。彼女とは、定期的に何度も会ってたんですよね?」
「……へ……?」
「里沙さんだけは他の女性と違ってた。好き……だったんですよね? 彼女のこと」
「え……や、えっと……」
「里沙さんのこと、好きなんですよね? 暁さん」
暁はぼんやりと雅紀の唇を見つめた。何だろう。昔の不実を責められていると思ってたら、雲行きが変わってきた気がする。
里沙? ……確かにあいつはあの頃のセフレの1人で、今でも交流のある唯一の女だ。雅紀の言うとおり、他の女とはその場限りがほとんどだったが、里沙だけはずっと続いた。身体の相性が良かったこともあるし、互いに余計な干渉はしない所が気に入っていて……。でも……。
……好き? 好きって何だよ。俺が里沙のことを好き……?
好きか嫌いかと聞かれれば、里沙のことは好きだと思う。
だけど今、雅紀が俺に聞いている「好き」は、そういうことじゃないよな?
「や。おまえ、何言ってんの? そのことなら前にも言ったじゃん。つか、何回も言ってるだろ? 里沙のことは嫌いじゃねーよ。でも俺はあいつをセフレとしてしか見たことねーし、里沙だって同じだ。あいつは……」
「暁さんはそうかもしれない。でも里沙さんの気持ちまでは、分からないでしょう?」
遮られて、暁ははっとして雅紀の目をもう1度見つめた。感情がないと思っていた雅紀の目に、何故か哀しみの色が宿っている。
「俺、分かるんです。自分が苦しい恋してたから。何となく感じるんだ。里沙さんの気持ち。里沙さん、ずっと苦しい恋してますよね? その相手って、暁さんじゃないんですか?」
「……っ」
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!




