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番外編『愛すべき贈り物』94

……なるほど……な。そういうことか。雅紀がこの所、ずっと様子が変だったのは…これだったのかよ。 自分と妙に距離を置いている感じだったのも、祥悟からの依頼に積極的だったのも、里沙の付き添いを率先してやっていたのも。 雅紀が言う辛い恋ってのは、秋音への片想いのことだろう。自分と再会するまでの7年間、こいつは秋音への想いを、必死に忘れようとしていたのだ。 里沙の辛い片想いに、雅紀の心が共鳴したのか。 こいつはまったくもう……なんて優しい男なんだろう。 暁はこほんと咳払いすると、雅紀の方にきちんと向き合った。 「なあ、雅紀。正直に答えてくれよ? そのことで、里沙から何か頼まれたのか?おまえ」 雅紀も神妙な顔で向き合って、ぷるぷると首を横に振った。 「ううん。里沙さんから、何も頼まれたりしてないです」 暁はじっと雅紀の目を見つめた。雅紀は嘘がつけない男だ。この目は本当のことを言っている。暁は頷いて 「うん。んじゃさ、里沙じゃなくて、祥悟から、何か頼まれてねえか?」 途端に、雅紀の視線がうろうろと彷徨った。明らかに動揺した様子だ。 ……まったく……。 こいつはびっくりするくらい嘘のつけないヤツなのだ。 「何も、頼まれてない、です。……ってか、暁さん、質問してるの、俺の方だしっ」 さっきまでの澄ました表情が一変している。頬を紅潮させ、動揺してしまった自分を誤魔化そうと必死だ。 「んーとな、雅紀。んじゃさ、おまえの質問にちゃんと答えるぜ。だからおまえも、嘘はつくなよ」 「う……。ぅん……」 暁はちょっと可哀想になってきて、雅紀から目を逸らすと、軽く深呼吸してから、穏やかに切り出した。 「おまえが感じてる通りな、里沙はずーっと、辛い片想いしてたよ。それは俺がセフレとして付き合ってた時から…いや、そのずっと前からだと思うぜ」 「え……じゃあ……」 「俺も詳しく聞いたわけじゃねえの。そういうの、お互いに干渉し合わねえのが居心地良くって長続きしてた関係だからな、俺と里沙は」 雅紀はなんだか泣き出しそうな顔で、真剣に耳を傾けている。 「結論から言えばさ、里沙の片想いの相手は、俺じゃねえよ。祥悟がおまえにどんなこと、吹き込んだかは知らねえけどな」 「……じゃあ……じゃあ……あの……」 「里沙がずっと好きだったのは、里沙と祥悟を施設から引き取った義理の親父さんだ」 「……っ」 暁の意外な言葉に、雅紀は目を大きく見開いた。暁はほろ苦く笑うと 「里沙は橘の親父さんの、正式な養女だからな。親父さんは里沙の所属事務所の社長でもある。15歳も年上の既婚者だ」 「………」 「10代で養女として引き取られて、おそらくは里沙の初恋だったんだろうな。もう20年近く、あいつは絶対に許されない、叶わない恋を引き摺ってんだよ。……辛いよな」

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