546 / 605

番外編『愛すべき贈り物』95

雅紀はきゅっと顔を歪めた。 感受性の強い雅紀のことだ。きっと里沙の心情を、まるで自分のことのように感じているのだろう。 暁は、雅紀の髪をくしゃっと撫でて 「そういうことだ。里沙が俺のこと、好きだったってのは、おまえの誤解だよ。ま、誤解っつーか……多分、祥悟にそう聞かされたんだろ‍?」 雅紀の目には、既に涙が浮かんでいる。暁が顔を覗き込むと、くすんと鼻を啜りながら、ぎこちなく頷いた。 暁は、はぁ~っと深いため息をつくと 「祥悟のヤツ……ったく、どういうつもりだ‍? あいつが里沙の片想いの相手、知らねえはずねえんだぜ。分かってておまえに、余計なこと吹き込みやがって」 「もう、大丈夫だよ。薬は完全に抜けたしさ。怪我だってたいしたことないって医者も言ってたじゃん」 「でも、祥。もうすぐ橘のお義父さまが来てくださるのよ」 祥悟は振り返って、里沙を睨みつけ 「来てくれなんて言ってないよ、俺。こういう時だけ父親面とか、マジで勘弁」 「祥っ」 降りてきたエレベーターに乗り込むと、里沙も慌てて飛び込んだ。祥悟は少しよろめいて、壁に寄り掛かり 「とにかく、病院に見舞いに来てもらうとか、俺、嫌だからさ。超格好悪いし」 頑なな祥悟の態度に、里沙はため息をついて 「分かったわ。今、マネージャーが退院の手続きしてくれてるから。あなた、まだ辛いんでしょ‍? タクシー乗り場に行きましょう」 「……ごめん……。あのホテル、まだ使える‍?」 「大丈夫よ。私の部屋はそのままにしてるから。とりあえず、ホテルに帰ったら、そこでもう少し横になってちょうだい。顔色、悪いわ」 里沙はそう言って、祥悟の頬に手を当てた。 ……っ。頼むから。そんな近寄んなよ…っ 祥悟は里沙の手を振り払い、ドアの方に歩み寄って、階数表示板を睨みつけた。 里沙は拒絶を示す祥悟の背中を見つめて、またため息をつき、 「そんなにお義父さまが……嫌い‍? 祥」 祥悟は表示版を睨んだまま、唇を噛み締めた。 ……嫌い‍? ……嫌いなんて言葉じゃ全っ然、足りないね。俺はあいつを……憎んでるんだよ。里沙。 エレベーターが1階に着いて、チンという音と共にドアが開く。祥悟はポケットに手を突っ込むと、振り返ってちらっと里沙の方を見てから、箱を降りた。 「ほれ~。泣くなって」 暁はベッドヘッドに備え付けのテッシュを数枚取ると、雅紀の鼻に押し当てた。雅紀は大人しくちんっと鼻をかむと、恨めしげな顔で暁を見上げる。 「お。何その顔。雅紀くんはまだ俺に、問い質したいことでもあんのかな~?」 わざとふざけてみせる暁に、雅紀はぷくんと頬をふくらまして 「里沙さんの想い人のことは、分かりました。俺、誤解してた。でも、祥悟さんが言ったんです。女好きだった暁さんに、俺と一生、その……添い遂げる……覚悟がほんとにあるのか? って。その、つまり、大きなおっぱいとか、柔らかいお尻、とかに、ほんとに未練ないのか?って」

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!