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番外編『愛すべき贈り物』98
雅紀は自分にのしかかる暁の重みを噛み締めていた。息が詰まりそうな苦しさが嬉しい。
暁が自分に執着してくれてる。好き過ぎて怖いと言ってくれる。
だったら……自分は何を怖がることがあるだろう。
『君のその大きな綺麗な目で、真っ直ぐに早瀬を見てごらん。余計な雑念なんか捨てて、ただ素直に、早瀬の心をしっかり見つめてごらんよ。きっと君には見えるはずだよ』
穏やかに諭してくれた、古島の言葉がよみがえってくる。
……暁さんの……心を……。
「ばっか……おまえ……。なんで……笑ってんだよ。なに、その嬉しそうな顔」
暁は苦しそうに息をはくと、雅紀の両手首を掴んだ手を離した。雅紀の上から退けようと、身体を起こす。
雅紀はぱちっと目を開けて、離れて行こうとする暁の腕をぎゅっと掴んだ。
「逃げないで? 俺も逃げないから」
涙に濡れた目で、じっと見つめられて、暁は顔を歪めた。
「もっと怖がれよ。嫌だろ? こんなの。もしかしたら俺、貴弘より……」
雅紀の人差し指が、暁の唇をそっと押さえる。まるで何も言うなと嗜めているように。
はっと目を見開く暁に、雅紀はにこっと花のように笑って
「じゃあずっと捕まえててくださいね。俺のこと、この腕の中に閉じ込めて……離さないで」
「雅紀……」
暁ははぁ……っとため息をつくと、雅紀の唇に噛みつくようにキスを落とした。
ホテルの里沙の部屋に辿り着くと、祥悟は疲れた顔でソファーにどさっと腰をおろした。
「ね、祥。そっちじゃなくて、ベッドに横になって。ちゃんと寝た方がいいわ。あなた、顔色悪すぎる」
「だいじょうぶ、だよ。ここでいい。それより里沙……いや、姉さん、水、取ってくんない?」
里沙はベッドの掛け布団をめくろうとしていた手を止めた。心配そうに祥悟を見てから、備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
「ありがと」
里沙が差し出すボトルを受け取ると、怠そうに背もたれに身体を預けたまま、蓋を外した。ぐいっと一気に水を煽る。口の端から零れた水を、手の甲で拭うと
「姉さん、今からもう一部屋、借りれる? ここ」
「どうして? この部屋、ツインだもの。わざわざ他に借りなくていいわ。今日は私、あなたに付き添ってずっとここにいるから」
ほっとしたように背もたれに身体を預けかけた祥悟が、顔をあげて里沙を睨む。
「この部屋にずっと? 冗談だろ。姉貴とツインで同部屋とか、あり得ねえし」
里沙はふふっと無邪気に笑うと
「姉弟なんだから別にいいでしょ。具合の悪いあなたを、1人になんか出来ないわよ」
……マジで、冗談キツい。
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