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番外編『愛すべき贈り物』99
祥悟は内心舌打ちすると、ずるずると肘掛けに頭を預けた。
ここに来るタクシーの中で、目眩と吐き気が酷くなった。本当はあと1日位、病院に居た方が良かったのかもしれない。義父が来ると聞かされなければ、本当はそうしたかったのだ。
「じゃあさ、マネージャー呼んでよ。付き添いは彼でいいよ。姉さんはマネージャーの部屋に行けばいいじゃん」
里沙はベッドから掛け布団を持ってくると、祥悟の身体に掛けてから、椅子を引っ張ってきて祥悟の側に座り
「子どもの頃は、こうしてよく看病してあげたでしょ。いいから姉さんに任せて。ゆっくり眠りなさい」
久しぶりの姉貴面に、里沙はちょっとはしゃいでいる様子だった。無邪気に顔を覗き込まれて、髪の毛をさわさわと撫でられて、祥悟はぷいっと顔を背けた。
……本っ当に冗談キツい。
「俺のことより、姉さん、昨夜よく眠れてないんだろ? あっちで寝ろよ。来月は最後の撮影だって言ってたじゃん。睡眠不足はお肌の大敵。もういい歳なんだから、油断してたらシワシワになるよ」
そっぽを向いて憎まれ口を言う祥悟の頭を、里沙はぺしっと叩いて
「もう、失礼しちゃうわね。可愛くないこと言ってないで、いいから寝なさい」
祥悟は完全に里沙に背を向けて、目を瞑った。
……目が覚めてもう少し体調がよくなったら、この無邪気な罪作りを部屋から追い出してやる。
「ん……んふ……っん……んぅ……」
暁に痛いくらい抱き締められて、息が出来ないくらい唇を貪られて、雅紀は震えるほどの歓びに満たされていた。
この腕は、自分を縛める甘やかな鎖だ。雁字搦めにされればされるほど、喜びは深くなる。他の誰でもない、暁だからこそ、もっともっと強く抱き締めて、腕の中に閉じ込めて欲しい。
元カレにも貴弘にも、感じたことのない、この不思議な情動。束縛も執着も、暁から与えられるものならば、全てが愛おしい。
夢も見ずにぐっすりと眠っていたらしい。目が覚めると重怠かった頭の中も身体も、不思議なほど軽くなっていた。
ソファーから身を起こし、部屋の中を見回すと、2つ並んだベッドの壁側に、里沙が横になっている。やはり病室では安眠出来なかったのだろう。ちょっと横になるつもりが、つい寝入ってしまったような感じだった。スリットの入ったタイトスカートからすらりと伸びた形のいい脚。職業柄、無駄な贅肉のない身体は、でも程よく女性らしい丸みを帯びていて、他のどんな女よりも美しい。
……だから~。無防備過ぎるっつってんだろ。勘弁してくれよな。
祥悟は大きな溜め息を吐き出すと、里沙の身体から無理やり視線を引き剥がした。
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