551 / 605

番外編『愛すべき贈り物』100

祥悟が里沙に、弟として以上の想いを抱いていると自覚したのは……14の時。でも克実は施設にいた頃から、気づいていたらしいから、多分もっと早い時期に、自分は無自覚なまま恋していたんだろう。 ……どんだけナルシストなんだよ……俺は。 初恋にしてずっと心の痛みを引き摺っている相手は、よりにもよって双子の姉。まったく……シャレにならない。 思春期のアンバランスな心と身体が起こした錯覚だと、必死に自分を誤魔化してきた。多分、俺はナルシストだから、そっくりな姉を愛おしいと思ってしまうんだと。 でも……きっと違う。 小さい頃は合わせ鏡のように似ていた姉が、どんどん変わっていった。その女性らしい変化が眩しくて、自分と違う所を発見する度に、いちいちドキドキしていた。橘の義父に引き取られて、モデルとしてのレッスンを受けるようになると、里沙は更に垢抜けて美しくなっていった。まるで蛹が蝶になっていくように……。 祥悟は純粋に憧れていたのだ。誇らしくも思っていた。里沙のモデルとしての人気が上がっていく度に、自分のこと以上に嬉しくて仕方なかった。 ある時点までは……。 ある日、事務所の社長でもある橘の義父の部屋のドアの前で、思い詰めた表情をしている里沙を見かけた。声を掛けようとして、開いたドアから義父が顔を出し、里沙を部屋の中に迎え入れたのを見て、祥悟は咄嗟に柱の影に隠れた。その後、10分ほどして、里沙が出てきた。その目に、今にも零れ落ちそうな涙を浮かべて。 祥悟がそっと後を追うと、里沙は自分の部屋に入っていった。祥悟はしばらく悩んでから、里沙の部屋のドアノブを、恐る恐る回してみた。鍵は掛かっていない。音を立てないように慎重にノブを回して、里沙の部屋に忍び込んだ。入ってすぐのリビングスペースに、里沙の姿はない。祥悟は足音を立てないように部屋を横切り、奥の寝室のドアをそっと開けて、細い隙間から中の様子をうかがった。 里沙は、ベッドの上に座って泣いていた。はらはらと涙が頬を伝い落ちている。 祥悟はしばらくの間、金縛りにあったように、息をすることも忘れて、里沙の顔を見つめていた。こんな綺麗で儚い涙を見たことがなかった。いや、儚いほどに美しかったのは里沙自身だ。ずっと側にいたのに、こんな大人びた顔をする里沙を、見たことがなかった。 不意に、胸に錐でも差し込まれたような鋭い痛みを感じて、祥悟はよろよろとドアから離れた。 ……あんな里沙、俺は、知らない 祥悟は何かに追い立てられるように、里沙の部屋を後にした。 廊下に出て、よろけながら自分の部屋に飛び込み、ベッドにへなへなと座り込んだ。 「……なんだよ……あれ……なんなんだよ……」

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!