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番外編『愛すべき贈り物』101

里沙が義父とどんな会話を交わしたのか。何故あんなに思い詰めた表情をしていたのか。そしてどうして泣いたのか。その時は全然分からなかった。ただ、ずっと一緒に生きてきた自分の半身が見せた、まるで別人のような表情が衝撃だった。 里沙は、オンナの顔をしていた。あの時は子供だったから理解出来なかったが、今ならば分かる。 ……あれは……恋を知ったオンナの顔だった……。 自分と同じだと思ってい里沙が、違う生き物になっていく。自分を置きざりにして、艶やかに変身していく。 何だか分からないけれど、ものすごく裏切られた気がした。必死で追いかけ、伸ばした自分の手は、どこまで行っても里沙には届かない。 ……ガキかよ。……ナルシストだけじゃなくてシスコンもだ。あ~っ、もう、恥ずかしすぎるっ あの頃の自分を思い出すだけで、うわぁぁぁっと叫び出したくなる。 祥悟は心の中で何度も舌打ちすると、里沙の身体は見ないようにして、そっと寝顔に目をやった。 すやすやと気持ちよさそうに寝ている里沙を見ていると、思わず頬がゆるむ。普段は垢抜けした大人の女だが、寝顔は少し幼くなって、子どもの頃のことを思い出してしまう。 ……ずっと……子供のまんまで居られたらよかったよな……。無邪気にじゃれ合って、余計なことなんか思い煩うこともなくさ。 あの日、里沙の涙を見た後、祥悟は気になって、義父と一緒にいる里沙をそっと観察していた。だが、自分が一緒にいる時の里沙は、以前と変わりない様子で、あれは夢だったのではないかとさえ思えた。 以前と何も変わらない日常。 変わってしまったのは、祥悟の方だったのかもしれない。 ふとした瞬間に、あの時の里沙の顔が思い浮かぶ。 そのうち、夢にも里沙が現れ始めた。丘の上の大きな木の横で、自分の呼び掛けにハッとしたように振り返る少女。駆け寄って捕まえようとすると、自分の腕からすり抜けて、軽やかに丘を駆け下りていってしまう。必死で追い掛けても、距離は縮まるどころか、どんどん離れていった。どうしても届かない絶望感に、打ちひしがれて目が覚める。 夢の内容はいつも同じだった。ただ、最初は少女だった里沙が、夢の中で少しずつ成長していることに気づいた。同じ情景の同じ内容の夢なのに、里沙は少しずつ大人になっていく。その夢を見た朝は、いつもスッキリしない気怠さが残った。 祥悟は、少しずつ、里沙と距離を置き始めた。仕事で共に過ごす時間以外は、なるべく離れて過ごす。以前はべったりだった2人の変化に周りの人間は「そういう年頃なんだろう」と特に気にも止めていない様子だった。 共に過ごす時間が減った分、祥悟の気持ちは内へ向かっていった。自分から距離を置いたはずなのに、里沙の様子が気になって仕方ない。仕事仲間と遊びに出掛けても、時折、里沙のことを思い出した。そんな自分が嫌で堪らなかった。

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