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番外編『愛すべき贈り物』102
次の転機が訪れたのは、20歳の誕生日を数日過ぎたあの日。遊び仲間に誘われて、ようやく解禁になった酒を飲みに、夜の街に繰り出した。大人数で飲んで騒いで、夜中の1時に自宅へ帰った。上機嫌で上着をソファーに脱ぎ捨て、奥の寝室へ行き、ベッドにダイブしたら先客がいた。
……っ。
ベッドですやすやと寝息をたてていたのは、里沙だった。多分、相当酔っていたのだろう。祥悟は自分の部屋に戻ったつもりで、同じ階の里沙の部屋に来ていたのだ。
里沙はその頃、多忙な仕事や不規則な生活のストレスからか、軽い不眠症になっていて、寝る時に医者から処方された薬を使っていた。そのせいか、祥悟がベッドに転がり込んでも、目を覚ます気配はなかった。
思いがけない里沙の寝顔が、すぐ目の前にある。祥悟は心臓が止まりそうなくらい驚いて、しばらくそのまま固まっていた。
不意に里沙が顔を顰めて身動ぎした。祥悟はびくっとして、慌てて里沙から少し離れる。夢でも見ているのか、里沙は目を瞑ったまま薄く微笑んで、寝返りをうった。その拍子に掛け布団がズレて、里沙の肢体が目の前に現れた。
……っ!
里沙は薄いナイトドレスを着ていたが、寝る時にブラジャーは着けていない。華奢な割には意外と大きな胸が、薄い布越しに透けて見えた。
耳の奥でガンガンと鳴り響く、自分の鼓動の音が煩い。ダメだ、目を逸らさなければと思うのに、里沙の身体から目が離せない。
……ダメだって。部屋……出ないと。ここにいちゃ、ダメだろ。
仕事柄、里沙の裸すれすれの際どい姿なんて見慣れていた。有名ブランドの専属契約をしている彼女は、新作発表の時に下着でイベントに参加しているし、双子モデルとして出演するショーの時は、楽屋での着替えで大胆に脱ぎ着する姿も見ている。そんなことでいちいち恥ずかしがっていたら、モデルの仕事なんて勤まらない。
最初の衝撃がおさまると、祥悟は自分の動揺が情けなくなってきて、じりじりとベッドの上で後退した。
……ばっかじゃねーの? 里沙の寝姿ぐらいで、俺、どうしてこんなにパニクってるんだよ。
冷静に自分に突っ込みを入れながらも、相変わらず視線は彼女の肢体に釘付けだった。胸だけじゃない。ナイトドレスの裾からすらりと伸びた脚。布越しでも分かるきゅっと括れた細いウエスト。全てが、男の自分にはない女性らしい完璧な美しさだった。
祥悟はごくりと唾を飲み込み、今度はそっと里沙の側ににじり寄った。見慣れているはずの里沙の身体に、狼狽えてしまったのは、きっと酔ってるからだ。仕事の時と違って妙に生々しく感じてしまうのは、里沙が無防備過ぎるせいだ。
だいたい、年頃の娘の癖に、部屋に鍵も掛けないで寝るなんて、警戒心がなさ過ぎる。
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