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番外編『愛すべき贈り物』103
心の中で必死に言い訳しているうちに、祥悟はだんだん腹が立ってきた。ズレ落ちた掛け布団を持ち上げて、里沙の身体を覆ってやろうと身を乗り出す。
布団を掛け直そうとした時、里沙がまた身動ぎした。祥悟はドキッとしてそのまま固まる。
里沙は目を覚まさなかった。
ただ、さっきは幸せそうに微笑んでいたのに、今度は何故か辛そうに顔を歪めている。
……っ。
里沙の閉じた目から、不意に零れ落ちた涙。祥悟は息を詰め、里沙の顔を見つめる。
里沙の涙を見たのは、あの日以来だった。不意に鮮やかによみがえってきた、あの日の里沙の大人びた表情。
祥悟はぎゅっと顔を歪めると、里沙の上に体重をかけないようにそっと覆い被さって、その寝顔をじっと見下ろした。
祥悟が里沙と距離を置き始めたのは、自分の中に眠る、決して許されない感情に気づいてしまったからだ。夢の中の幼い少女が艶やかに成長していく度に、自分の姉への思慕は、せつなく狂おしくふくらんでいった。
16の時、祥悟は当時自分の担当だった年上のスタイリストに誘われて、彼女のマンションに行き、初めて女を抱いた。相手は遊び慣れていて、上手にリードされて抱いている時は、何もかも忘れて夢中になれた。でもイく瞬間に脳裏に過ぎったのは、あの日の里沙の泣き顔。祥悟は激しく動揺した。
……こんなのダメだろ。こんなはずねーし。ありえねえから。
その後、誘われるまま他の女とも身体を重ねた。周りに遊べる相手は事欠かなかったから、祥悟は一時溺れるように、次々と女に手を出していった。すっかり熟れて、自分で相手をリード出来るようになっても、楽しんで帰った夜に見る夢の相手は里沙だった。挙句の果てに、ある日の夢の中で組み敷いた相手が里沙だった時、祥悟は自分の中の逃れられない病を悟ったのだ。どれほどもがいても、忘れようと足掻いても、絡みついた蜘蛛の糸は、この心を放してはくれない。
ー俺は、里沙が好きだ。恋してる。……いや……愛してる。
祥悟は、自分の想いを自覚すると同時に、里沙があの時流した涙の理由にも気づいてしまった。そうと意識して、義父と一緒にいる時の里沙の様子を見ていると、里沙の気持ちはダダ漏れで、何故今まで気づかなかったのかと不思議なくらいだった。
里沙は恐らく、義父に恋をしている。義父が里沙をどう思っているかまでは分からないが…。
最初から、叶わない恋だった。祥悟の想い人は血の繋がった姉だ。自分のこの想いは、絶対に許されない禁忌なのだ。それでも、祥悟は義父に激しく嫉妬した。里沙の心を虜にしている義父が憎かった。15歳も年上の既婚者じゃないか。何故よりにもよって……。
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