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番外編『愛すべき贈り物』111
顔を曇らせる雅紀の頭を、暁はわしわしと撫でた。
「いーや。まーた祥悟の我が儘が出ただけだろ。東京からさ、義理の親父さんが見舞いに来るってんで、焦って逃げ出したみたいだぜ」
雅紀の目がまあるくなる。
「あ。里沙さんと祥悟さんのお義父さん?」
暁は微笑んで頷き
「そ。祥悟はその親父さんが苦手みてえだな。里沙が前からよく愚痴ってた。ま、血が繋がってねえ上に、15しか歳が離れてねえしさ、引き取られたのは思春期真っ盛りの頃だ。いろいろと難しいんだろうけどな」
そう言って苦笑する暁……いや、秋音自身、実の父親との関係を考えてみれば、他人のことは言えない。実の父親と上手くいっていないのは、雅紀だって同じだ。ちょっとほろ苦い顔になった暁の胸に、雅紀は頬をすりすりして
「そっか……。じゃあ、祥悟さんと里沙さん、ホテルに戻ってきてるんですね」
「ん。里沙の借りてる部屋で、祥悟を休ませてるらしい。でさ、マネージャーの渡会さんが義理の親父さん連れて、今こっちに向かってるんだと」
雅紀は暁の胸から顔をあげた。
「わ……。大丈夫かな……祥悟さん……。会いたくないって駄々こねそう……」
暁は苦笑して
「それな。渡会さんもそれ心配して、俺に電話くれたみたいだな。里沙のストーカー警護はもう終了だけどさ、2人が明日、東京に帰るまで、引き続き付き人を頼むってさ」
「あ、じゃあ、里沙さんの部屋、行かないと、ですよね」
「だな。ちぇっ……。せーかくいい感じに盛り上がってたのにさぁ……。おまえの超エロエロのイき顔、見逃しちまったぜ」
暁の言葉に雅紀は目を見開き、真っ赤になった。
「ばっ。ばかじゃん、暁さん、んもぉ~何言ってんの?」
慌てて暁の腕から逃れ出ようと、またじたばたする雅紀を、暁はぎゅーっと抱き締めて
「つーことで、続きは今夜な。この不完全燃焼分もさ、後でめっちゃ可愛がってやるからな」
暁に耳元で囁かれて、雅紀は赤い顔のまま、こくこくっと頷いた。
1人暮らしを始めると、祥悟は里沙に会えない寂しさを紛らわすように、今まで以上に頻繁に、夜の街に繰り出すようになった。もちろん橘との約束通り、仕事はきちんとこなし、羽目を外さない程度に遊んだ。
何人か、気になる女とも付き合ってみたが、どれもあまり長くは続かなかった。
女を抱いた後は里沙の夢を見る。どうしても無意識に、目の前の女と里沙とを比べてしまう。想いは封じ込めても、そう簡単に消えてくれることはなかった。
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