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番外編『愛すべき贈り物』112
22歳の時、モデル仲間の1人に誘われて、祥悟は好奇心で初めて男に抱かれた。思っていたよりは気持ち良くて、何より里沙のことを思い出すという余計なオプションがないせいか、女相手よりも気が楽だった。
その男、智也は今でも付き合いのあるセフレの1人だ。整った目立つ外見の割に、穏やかで優しいその男を、祥悟は気に入っていた。智也は数年前にモデルを辞めて、舞台俳優にシフトしたが、互いに忙しい仕事の合い間に、2ヵ月に1度ぐらい一緒に飲みに行って、彼のマンションで抱かれる。
男は初めてだったが、身体の相性はよかったらしい。いや、心の相性も、もしかしたら一番いいのかもしれない。智也に抱かれている時は、日頃の鬱屈も里沙のことも全て忘れて、快楽だけに没頭出来る。女相手の時のように、自分がリードしたり気遣う必要がないから、肩の力が抜けて、心からリラックス出来た。
関係して2年が経った頃、智也に、他の男や女は切って、ちゃんと付き合わないか? と口説かれたが、束縛されるのは嫌だと拒否すると、もうそれ以上は何も言わなかった。
里沙のことは忘れたい。でも里沙以外の人間と、一対一で向き合うのは無理だった。
里沙が、ソファーに寝ている自分の為に掛けてくれた布団を、里沙の上にそっと掛け直してやる。長い年月をかけて封じ込めてきた想いは、今でも時折心にチクチクと棘のような痛みを与えるけれど、あの頃のような、どうにも抑えきれない衝動を、今はもう感じない。
「相変わらず進歩ないけどさ、少しは俺、大人になっただろ。……なあ? 里沙」
眠る里沙を起こさないように、小声で呟くと、祥悟は向かいのベッドに腰をおろした。
里沙は25の時に、橘の家を出てマンションで1人暮らしを始めた。突然の引っ越しの知らせを聞いて、祥悟は不安になり、慌てて里沙の新居を訪ねた。
橘の家で何かあったのか? と問い詰めたが、里沙は何もないわ……と笑うだけで、理由は言わなかった。
里沙は何だか酷く疲れているようで、それ以上は祥悟も踏み込めなかった。
別居したことで、自分と里沙の間に、精神的に距離が出来てしまったことにも気づいた。それは自らが望んだ結果だったはずなのに、遠くなってしまった里沙の心が哀しかった。
しばらくして、里沙に恋人が出来たと仲間内の噂で聞いた。祥悟はすごく動揺したが、たまに現場で顔を合わせても、本人に聞く勇気はなかった。
里沙の交際は長続きしなかった。すぐに新しい恋人の噂を聞いたが、それも数ヶ月で終わったようだった。里沙の恋人の噂を聞く度に、いい人を見つけて結婚でもしてくれたら……と願うのに、別れたと聞くと安堵している自分がいて、それがせつなく苦しかった。
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