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番外編『愛すべき贈り物』113
里沙と、プライベートで会うことが多くなったのは、30を過ぎてからだ。それなりに人生経験を積んで、純粋だった10代や20代の頃に比べると、本心を隠して平静を装える位には、大人になっていた。
その頃、里沙には特定の恋人の噂はなかったが、ある日仕事の打ち上げで飲んだ帰りに、長身の男と一緒にホテル街に消えていく里沙の姿を、偶然見てしまった。恋人の噂は聞いていても、男と一緒の里沙を実際に見たのは初めてだ。
ショックだった。忘れてしまえ……と何度も自分に言い聞かせたが、どうしても気になって、数日後に里沙を飲みに誘った。
冗談めかして、あの夜の男のことを尋ねてみると、里沙は「ちょっと前にバーで知り合ったの。でも恋人じゃないわ。たまに会って遊んでるだけ」とあっさりと認めた。
その相手が、早瀬暁だった。
ようやく心の奥に閉じ込めた想いが、里沙の恋人の存在を目のあたりにして、またもやもやと浮上してきた。祥悟は素知らぬ態度を装いながら、里沙の相手の早瀬暁という男の情報を、密かに探った。
職業は探偵。……いかにも胡散臭い。長身で日本人離れした体格の、かなりのイケメンだった。遊び仲間やセフレや業界仲間の情報網を駆使して、祥悟は徹底的に暁のことを調べた。
そして出た結論は……「早瀬暁は、里沙を不幸にする遊び人」だった。
仕事は真面目なようだが、とにかく女にだらしない。次から次へと女に手を出して、どの女とも真剣に付き合っている様子はなかった。里沙が真面目に付き合って、結婚して幸せになれるような相手では絶対にない。
きっと、里沙は騙されているのだ。
大切な里沙を弄びやがって……っと憤りながら、内心ほっとしている自分には気づかないフリをした。
祥悟はある計画を練った。2度と大事な里沙に近づかないように、早瀬暁に罠を仕掛ける。今思い出すと、いろいろと勘違いしていた自分がほろ苦いが、あの時は大真面目だった。
周到に彼の出没する店をリサーチして、好みの女のタイプも調べて、念入りに準備すると、ある夜それを実行に移した。
職業柄、女装は得意だ。男を落とすテクニックもそれなりに磨いている。里沙に似た容姿も、髪型や化粧で徹底的に化ければ、なんとか誤魔化せる。
早瀬暁がよく行くバーに、先回りして待ち伏せた。この店に来る前に、暁が他で女を調達すれば、空振りになる。
祥悟はじりじりしながら待った。何人か、ちょっかいをかけてくる男たちを適当にやり過ごし、もしかしたら今夜はもう来ないかもしれない……と思い始めた時、店のドアが開いて、待ち焦がれたターゲットが、ほろ酔い状態で姿を現した。
……きたっ。よーし。ターゲットロックオン。
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