565 / 605

番外編『愛すべき贈り物』114

既に、半分は賭けに勝った気分で、祥悟は内心ほくそ笑むと、慣れた様子でカウンターに腰をおろした暁を、カウンターの少し離れた場所から、そっと観察した。 酒を頼み、バーテンダーと世間話をしていた暁が、軽く店内を物色するように眺め始めた。 祥悟はそっと深呼吸をすると、表情を作って顔をあげ、暁をちらっと見てからバーテンダーを呼ぶ。飲んでいたカクテルのお代わりを頼んで、物憂げにバーテンダーの動きを目で負いながら、横目で暁の反応を探る。 ちらっとだが目が合った暁は、目論見通り、こちらに興味を持ったらしい。店内を彷徨わせていた視線を止めて、じっと祥悟の様子を見ている。 ……OK。釣れた。 祥悟はカクテルのお代わりを置いたバーテンダーに、とっておきの微笑で応えると、優雅な仕草でひとくち飲んでからグラスを置いて、腕時計をちらっと見てほぉっと溜め息をついた。 暁が立ち上がる。自分のグラスを持って、ゆっくりと祥悟の方に近づいてくる。 「……ねえ、君。誰かと待ち合わせ‍?」 祥悟がちらっと視線を向けると、暁は切れ長の目尻を少し下げ、人懐こそうな柔らかい微笑みを浮かべて、祥悟の顔を覗き込んできた。 ……っ。 自分から誘ったくせに、祥悟は一瞬不覚にもドキっとしてしまった。人を雇ってこっそり何枚か撮らせた写真で、この男の顔はしっかり覚えていた。でも写真よりも数倍魅力的な、意外に人好きのする笑顔が目の前にある。 ……ばかか。落ち着けよ、俺 動揺を顔に出さないようにしながら、祥悟は小首を傾げてみせる。見た目は化粧で完全に化けても、声だけは誤魔化せない。なるべく短い会話でこの男を籠絡してやる。 「ここ、誰か来る‍?」 祥悟は微かに笑んで、腕時計を見てまた溜め息をつくと、小さく首を竦めた。それを了承のサインと受け止めたのか、暁はさりげなく祥悟の隣のスツールに腰をおろすと 「君みたいな美人を待たせるなんてさ、随分と失礼な男だよな。俺なら絶対に先に来て待ってるぜ」 そう言って片目を瞑り、祥悟のグラスに自分のグラスを軽く合わせる。 ……うわぁ……気障。 祥悟は内心、舌を出しつつ、ふふっと薄く笑った。 「ま、でもそのおかげで、俺と君はこうして出会えたってわけだ。そのドタキャン男に感謝しなきゃな」 祥悟は曖昧に微笑んで、暁にそっと流し目してから、グラスの中のチェリーを指先で弄ぶ。 「俺は暁。君は‍?」 「……香織」 「ん。じゃあさ、香織さん。君の空いた時間、少しだけ俺にくれない‍か? どこか静かな場所で飲み直そうぜ」

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!