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番外編『愛すべき贈り物』115
祥悟は背中がむずむずするのを我慢しながら、隣の暁を上目遣いでちろっと見て
「……退屈させない?」
暁はちょっと意外そうに目を見張り、すぐにまた、あの人懐こそうな笑みを浮かべた。
「もちろん。楽しい時間を約束するぜ」
……なるほど……ね。この顔で女を誑し込むわけか。
祥悟はしばらくの間、黙って暁の目を見つめてから、仕方ないな……というように苦笑してみせ
「いいわ。行きましょ」
小さく答えると、あっさりとスツールから降りた。祥悟の潔い態度に、暁は特に慌てた様子もなく、グラスの中身を悠々と飲み干すと、慣れた仕草でバーテンダーに合図を送る。先に祥悟をドアの所まで行かせてから、会計を済ませた。
店の外に出ると、暁はさりげなく祥悟の肩を抱いた。予想以上に呆気なく釣れた暁に、祥悟は内心笑いが止まらない。
さっきのこいつの気障ったらしいナンパの一部始終は、ICレコーダーで録ってある。これから先の会話も、里沙に聞かせる為に全て録音するつもりだ。
「香織、君さ、意外と背が高いんだな」
……はぁ? もう呼び捨てかよ。この女ったらしが。
とは思ったが、もちろん顔には出さない。この後もう1軒飲みに行って、男だとバレない自信は流石にないから、早いところこいつをその気にさせてホテルに直行させないと。
祥悟は少し寒そうに身を竦め、暁の身体に自分からそっと身を寄せた。
「もしかして寒いか? ちょっと風が出てきたよな」
暁はそう言って、いったん祥悟の肩から手を外すと、着ているジャケットを脱いで、祥悟に両肩に羽織らせた。祥悟が驚いて暁の顔を見上げると、
「背高いけどやっぱり華奢だな。俺のジャケット、ぶかぶかじゃん」
そう言ってちょっと照れたように笑った。
「……っ」
……なんだろう。さっきから俺、なんでこいつの笑顔に、いちいちドキっとか、しちゃってるわけ? ……ムカつく。
祥悟は妙に動揺している自分に舌打ちすると、小首を傾げて、暁を上目遣いに見つめて
「どこ、連れてってくれるの?」
なるべく不自然じゃない程度の高めの小声で、問いかけた。
「んー。何軒か行きつけの店あるけどさ、賑やかなのと落ち着いたの、どっちがいい?」
祥悟はここぞとばかりに、艶っぽい目をして
「……静かなところ。出来れば……2人きりが……いいかな」
そう呟くと、少し思わせぶりに目を逸らした。
暁はしばし沈黙した。
ちょっとあからさま過ぎたかと、祥悟が内心焦り始めた時
「OK。んじゃ、行こうぜ」
暁はそう言って、祥悟の肩を再び抱いて、歩き出した。
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