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番外編『愛すべき贈り物』116

……こいつやっぱサイテー。いきなりホテルかよ。やる気満々じゃん。 自分がそうするように仕向けたくせに、祥悟は内心ずっと毒づいていた。 肩を抱かれ、暁の話しかけに言葉少なに答えながら、飲み屋街から1本奥の道を連れ立って歩く。やがて辿り着いたのは、こ洒落た外観のファッションホテルだった。いかにもな感じの趣味の悪いラブホではないが、暁は慣れた様子で正面から入り、フロントで鍵を受け取ると、祥悟を連れて部屋に向かった。 部屋に入ると、祥悟に羽織らせていた自分の上着を、クローゼットのハンガーに掛けて、窓際の居心地の良さそうなソファーに祥悟を座らせる。 「香織、何か飲む‍?」 メニューを広げて笑顔で聞いてくる。祥悟は適当にグラスワインを指差すと、受話器をとってオーダーを始めた暁の姿をさり気なく観察した。 たしかに、こんな甘いマスクで声を掛けられたら、大抵の女は思わずぽーっとなってしまうだろう。 現役モデルの自分と並んでも、頭ひとつ分背が高くて、がっしりはしているが、均整の取れたしなやかな身体つきだ。 男らしく整った顔は、無表情だと切れ長の目がちょっときつそうに見えるかもしれない。だが、笑うと何とも言えない愛嬌があって、しかも独特の男っぽい色気がある。 仕事柄、祥悟の周りには、背の高いイケメンなんてごろごろいる。その自分がうっかりドキっとしてしまう位だから、暁のレベルはかなり高い……と思うのだ。 それにこの男、ただ容姿がいいだけではない。声といい、ちょっとした仕草、表情、喋り方。いちいちこちらの予想を裏切る不思議な魅力があって、妙に気にかかる。 ……‍は?……気にかかる……って何だよ。ほんと今日の俺、どうかしてる。相手は里沙を泣かせてる遊び人じゃん。 まあ、予想よりもずっといい男だったのは、素直に認める。あんな華やかな仕事をしていても、里沙は意外と世間知らずだから、こいつにうっかり引っかかってしまったのも、まあ頷ける。だからこそ、こいつの本性を暴いて証拠を見せつけて、里沙の目を覚まさせないと。 祥悟が決意も新たに背中を睨みつけていると、ひょいっと暁が振り返った。慌ててすっと目を逸らし、ハンドバッグを開けて、煙草とライターを取り出す。肌と喉を荒らすこの悪習は、普段はなるべく止めているが、慣れない女装と秘めた思惑からの緊張のせいか、無性に吸いたくなってきた。 「煙草、吸うんだ‍?」 「嫌い‍?」 「いーや。俺も吸うよ」 にっこり笑ってポケットから自分の煙草とマッチを取り出すと、さっと火をつけて差し出してくる。祥悟は咥えた煙草に火をつけた。暁もさり気なく隣に座りながら、自分の煙草に火をつける。 「やっぱり君、似てるな」

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