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番外編『愛すべき贈り物』117
細く煙を吐き出す祥悟の横顔を、暁はしげしげ見つめて呟いた。
「え……?」
「や。さっき店で見かけた時も思ったんだけどさ、君、俺の知り合いにちょっと似てる」
祥悟は内心ヒヤリとした。化粧をする時、里沙とはなるべく違う顔にしたつもりだ。でも双子だから、他人から見ればやはり似ているのかもしれない。
「知り合いって……カノジョ?」
なるべく平静を装いつつ、横目でちらっと見ると、暁は薄く笑って
「カノジョじゃないよ。ちょっとした知り合い、な。君とタイプは全然違うけどさ、横顔とか仕草とか、少し似てる。それにしても綺麗だな、香織。背も高いしスタイルもバツグンだし、もしかして……モデルとかタレントとか、やってたりするか?」
内心かなりヒヤヒヤしながら、祥悟は何食わぬ顔で小首を傾げ、暁を横目で見たまま微笑んだ。
「……まさか。お世辞、上手ね」
「お世辞じゃねーよ。マジで綺麗だ。俺が今まで会った中じゃあ1番、かもな」
ドアベルが鳴る。暁は煙草を灰皿に置くと、さっと立ち上がってドアに向かった。
祥悟は緊張を解いて、溜め息を煙と共に吐き出した。
……あっぶね。今バレたら計画台無し。……それにしても、カノジョじゃない、だと? 俺に似てるって里沙のことだろーが。やっぱりただの遊びってことじゃん。
まあ、カノジョ持ちの癖に、自分とこんな所にほいほい来てる時点で、どのみち完全にアウトなのだが。
暁はトレイを受け取ると、戻って来た。祥悟にグラスを手渡すと、自分のグラスを手にまた隣に座る。
「つまみは適当に選んだからさ、もし他に食べたかったらオーダーするぜ」
「ありがとう」
暁は微笑んでグラスを軽くかかげると、ひとくち飲んで
「今夜はあそこ、寄らずに帰ろうかと思ってたんだ。顔出して正解だな。君みたいな素敵な人に出会えた」
祥悟は曖昧に微笑んで、グラスに口をつけた。もっと声を出して話せるなら、この気障な軟派男に言ってやりたい嫌味もあるんだが。
……里沙のヤツ……。こんな感じでこいつについてったわけか?
ったく……。
遊びだなんて言っていたが、結構な頻度でこの男に会っているらしい。もしかしたら自分のマンションに呼んだりしてるのか? もう少し早く、自分が気づいていたら、深入りする前に止めさせていたのに。たしかに早瀬暁は魅力的な男だが、本気になって幸せになれる相手じゃない。
不意に、目の前の男と里沙の仲睦まじい様子が思い浮かぶ。
……こいつは里沙を……どんな風に抱くのだろう……。
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