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番外編『愛すべき贈り物』118
ホテルに入ってから、もう1時間近く経つ。祥悟は流石にじりじりしてきた。
こ洒落てはいるが、ここは、いわゆるナニをする為のホテルだ。ここに自分を連れて来たということは、こいつは自分を抱く気満々なわけで……。
それなのにこの男、酒とつまみ片手にたわいもない会話をするだけで、一向にそれっぽいムードに持っていこうとしない。
祥悟は無口な質ではないが、今夜は制約があるから、そんなに喋れない。当然、会話は盛り上がるはずもないのに、暁の話に相槌を打ってるだけでも、退屈は感じなかった。お喋りな男はあまり好きではないのだが、暁の話し方は不思議と心地よく、知らずに聞き入ってしまっている自分がいる。
……いやいやいや。ダメじゃん。たしかに静かな所で2人きりでって言ったけどさ。こいつほんとにヤル気あるわけ?
まさかこのまま、ただ酒飲んで語り明かして終わりなのか?ちっ。もっとがっつけよ。
もしかすると、俺が男だってバレてるとか? ……いや、まさかとは思うけど、俺が里沙に似てるから、警戒してるのか?
……里沙のヤツ、こいつに双子の弟がいるとか言っちゃってたりして。
祥悟は、表面上はにこやかに暁に相槌を打ちつつ、心の中で1人ぶつぶつ呟いていた。
このまま酒飲んでお終い、じゃ困るのだ。こいつに口説かれて、ベッドインまで持っていき、ギリギリの所で男だと明かす。その一部始終を録音して、里沙に男の不実の動かぬ証拠を突きつけ、別れさせるのが目的なのだから……。
「香織、上の空? 退屈だったか? 俺の話」
不意に話しかけられて、祥悟ははっと我に返り、焦って思わず声がうわずった。
「あっ……だいっじょうぶっ」
……やばっ。地声出ちゃったじゃん。
暁はちょっと驚いたように目を見張り、祥悟の顔をまじまじ見ると、ふ……っと頬をゆるめた。
「お。いいな、そういう顔。香織って意外と目、大きいんだな。ひょっとしてさ、緊張してる? こういうとこ慣れてないとか言う?」
祥悟が焦って口に手を当て、ふるふると首を振ると、暁はにっこり微笑んで
「澄ましてるより、そういう顔してる方が可愛いぜ、香織」
暁の腕が伸びてきて、ぐいっと肩を引き寄せられた。
……うわ……いきなり……っ
顔を覗き込まれ、息がかかりそうなくらい間近に、暁の顔がある。祥悟は自分の頬がじわっと熱くなるのを感じて、更にパニクった。
……なっ。なんなんだっての。いちいちこっちの予測がつかねーことすんなってば。っていうかどーして俺……っ
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