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番外編『愛すべき贈り物』119

自慢じゃないが、祥悟は男にも女にもかなりモテる。黙っていても言い寄ってくる人間はたくさんいるし、寝るだけならかなりの場数を踏んできてもいる。ガキの頃じゃあるまいし、今さら男に抱き寄せられた位で、こんなウブな反応をしている自分が信じられない。 ……くそっ 押され気味の体勢を立て直してやるっ。 祥悟が表情を引き締めた途端、暁の顔が更に近づく。 「リラックス……な‍? 香織。俺は君が嫌がることはしないぜ」 あ。キスされる……。 そう予測した暁の唇は、揶揄うように祥悟の唇を掠めて、鼻の頭に軽く触れた。また予想を外されて、祥悟は思わずびくっとして、暁の目を見つめた。暁は男の色気を滲ませた眼差しで、にやっとして 「すげぇ可愛いよ、香織。唇にキス……してもいいか?」 低音の少し掠れた声にも、独特の艶がある。祥悟がリアクション出来ずにいると、また鼻の頭にキスを落とされた。 いつのまにか、ソファーの背もたれと暁の腕の間に閉じ込められている。さっきまでの和やかな距離感がまるで嘘みたいに、あっという間に艶めいたムードになっていた。 ……なるほど……な。こいつやっぱ凄いかも。里沙が落ちるの、無理ないじゃん。 少し冷静になってきて、祥悟は思わず納得していた。こんな風に意表をつかれて間合いを一気に縮められたら、並の女ならきっとイチコロかも。 ……でも俺、女じゃないし‍? 祥悟は内心ほくそ笑んだ。 どうやら暁は、こっちが男だとは夢にも思っていないようだ。ベッドでいざ事に及んだ瞬間の、この男のマヌケ面が楽しみだ。 ようやく余裕を取り戻し、祥悟は艶然と微笑むと 「……キス……して……‍?」 囁いて目を閉じた。 暁の唇が目蓋にそっと触れ、そのまましっとりと唇に落ちてきた。触れるだけのキス。啄むようなキス。祥悟が暁の背中に手を回すと、口付けは深く甘くなる。柔らかく唇を割られ、吐息と共に熱い舌が忍び込む。 男でも女でも、余程気を許した相手じゃないと、祥悟は身体は重ねてもディープキスはしない。強引にされて下手くそだと、それだけで一気に気持ちが覚める。 暁のキスは上手かった。……というか、気持ちいい。口の中は身体中で一番、心に影響を受ける性感帯だと思う。これを気持ちいいと感じられるなら、この男とはセックスの相性もきっといい。 ちょっと残念な気がした。男だと分かれば、暁は多分自分を抱かない。事前のリサーチでは暁の夜の相手に男はいなかった。完全なストレートだろう。 暁に抱かれてみたかった。 この男が、里沙をどんな風に抱くのか知りたいという気持ちもある。

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