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番外編『愛すべき贈り物』121
シャワーは浴びずに、髪の先を少しだけ濡らすと、祥悟は洗面台の鏡の前で、自分の姿を念入りにチェックした。
ガウンの下はブラと女物のショーツ。もちろん化粧はしたままで、喉仏を隠す為のチョーカーも外さない。ここはその手のホテルとしては、割と高級な所らしい。アメニティも充実していて、祥悟はそれを使って少しだけ、化粧を直した。口紅やアイメイクの色味を少し薄くして、いかにもシャワー後のようなナチュラルな雰囲気に仕上げる。
いくらモデルでも、真っ昼間の陽の光の下で、30過ぎの男がこの姿ではかなり浮くだろうが、室内の照明の下でなら何とか誤魔化しも効く。
もともと、男としてはそれほどガタイがいい訳では無い。
細すぎる身体。女のような華奢で長い首や手足。里沙と比べたら間違いなく男だが、メンズモデルとしては物足りない自分の体格は、祥悟の一番のコンプレックスでもある。
さっき見てしまった暁の身体。理想的だった。あんな風に生まれていたら……もっと違う人生を送れていたかもしれない。
祥悟は、ふぅっと溜め息をつくと、全身をざっとチェックしてから、浴室のドアを開けた。
「お待たせ……」
浴室を出て、ベッドの端に腰をおろしている暁に、ゆっくりと歩み寄る。暁はガウンを着ていた。祥悟と目が合うと、例の人懐っこい笑顔を浮かべ
「おいで、香織」
両手を広げてみせる。祥悟は意を決して微笑むと、彼の腕の中に飛び込んでいった。
暁の逞しい腕に抱き締められて、ベッドの上で再び濃厚なキスを交わす。
やっぱりこの男とのキスはいい。少しクールダウンしていた身体に、また簡単に火がついた。
焦れったいくらいあっさりとしたフレンチキス。こちらがもどかしくなってきて、もっと欲しいとねだりたくなる寸前に、与えられるディープキス。決して自分よがりな性急さはなく、焦らされながら昂っていく。
キスなんて、挿入前にお決まりの前戯のひとつだと思っていた。でも暁とのキスは、今まで経験したことがないくらい、まるでセックスそのもののようで、その先の行為への期待感を容赦なく煽られてしまう。身体だけでなく心まで昂らされて、頭の奥が沸騰しそうだった。
この計画も、そろそろ終わりの時が近づいている。
自分が男だと分かったら、暁はどんな反応をするだろう。
騙したのかと怒るだろうか。
気持ち悪がる?
泡を食って逃げ出すだろうか?
最初は罠を仕掛けて正体がバレたら、こいつの間抜け面を思いっきり笑ってやろうと思っていた。でも、暁と過ごす時間は予想外に心地良すぎた。悔しいけれど、自分が女なら、例え遊びでも付き合っていいと思ってしまったかもしれない。
だが、今夜の目的はあくまでも里沙の目を覚まさせる為。それを忘れてはいけない。
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