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番外編『愛すべき贈り物』122

「なぁ、香織。脱がせるぜ?」 唇を離した暁が、欲情を滲ませた目で囁く。男に抱かれる時、こんな風に相手が欲情して自分を見つめる目が好きだ。同じ男だからか、その心情がよく分かるし、やる気満々の男の目がすごく可愛く感じてしまう。 「……私のこと……抱きたい?」 祥悟の言葉が意外だったのか、暁は少し目を見張り、子供のような無邪気な顔を見せた。 「ああ……すっげー……抱きたい。香織ん中入ってさ、やなこと全部忘れちまいたいよ」 掠れた声音に、意外に切実な響きが滲む。祥悟は暁の目をじっと見つめた。 さっきソファーで話していた時も感じた。この男は、祥悟の周りによくいる、軽薄で女好きなただの遊び人ではないのかもしれない。手当り次第に女を抱くのは、寂しいからかもしれない。何かを必死に探しているような、痛切に求めているような、そういう心の脆い部分が透けて見えてしまった。 祥悟はちょっと切なくなった。この男が今切実に求めている、柔らかくて優しい女の身体は、ここにはないのだ。この男を包み込み、嫌なこと全て忘れさせてやれるような存在には、自分は恐らくなれないのだから。 証拠の録音はもう充分だ。これ以上、暁に心が引きずられる前に、この茶番をそろそろ幕引きにしなくては。 祥悟は深呼吸すると、がらっと表情と声を変えた。 「ふぅん。じゃあさ、もし俺が男でも、あんた抱きたい?」 「……へ‍?」 暁がきょとんと目を丸くする。この瞬間を、自分は待ち望んでいたはずなのに、罪悪感で胸の奥がチクチク痛い。 「俺、男だよ? 全然気づかなかった?」 暁は目を丸くしたまま、祥悟の顔を無言で見下ろしている。 「それともあんた、男もいけるくち‍?」 悪戯っぽく笑う祥悟に、暁はようやく我に返って仰け反った。 「やっ、ちょっ、いやいやいや。はぁ~~? マジかよっっ」 それまでの低音イケボが台無しな、情けないほど上擦った声だった。 ……やっぱりね。男はダメか。 祥悟は内心溜め息をつくと、ちょっと申し訳なさそうに首を竦めた。 「ごめん。騙して」 そう言って、暁を押しのけて起き上がると、呆然としている暁の前で、ガウンを肌蹴てブラジャーを外した。 「ね‍? お・と・こ。何だったら下も見せる‍?」 暁は呆けた顔で、祥悟の胸と顔を見比べている。 さて。この後こいつはどんな行動に出るだろう。怒り出すかな‍? 下手すると、殴られるかもしれないな。 祥悟が密かに覚悟を決めていると、暁は何故かちょっと照れたように目を逸らし、手のひらで顔を覆って笑い出した。 「マジかーーー。くっそ~。やられた! 完璧、騙されたぜっ」

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