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番外編『愛すべき贈り物』123
身構えていた祥悟が拍子抜けするくらい、暁は楽しそうに笑うと
「胸見てもまだ信じらんねえっ。すっげーな、香織。こんな完璧な女装、俺初めて見たぜ~」
そう言って、嬉嬉として身を乗り出し、唖然としている祥悟の顔を両手で包んで覗き込む。
「……っ。なに、笑ってんだよ、あんた。…怒んねえの?」
「いや、完璧過ぎて怒る気になんねえって。俺さ、これでも一応、人間観察が基本な仕事してんだぜ? その俺がさ、ここまでコロっと騙されるって、おまえどんだけ美女だよ?」
怯んでいる祥悟の顔をまじまじと見つめて、暁は怒るどころかへらへらとご機嫌な様子だ。
……むーー。なんか…ムカつく。
暁に意表をつかれるのにはだいぶ慣れてきたつもりだったが、男だとバラして、こんなあっけらかんとした反応をされるとは思わなかった。この男にちょっと同情的な気分になっていた自分に、無性に腹が立つ。
「ちなみに俺、男抱くのは初めてだけどさ、君みたいな美人だったらいけるかもしんねえな。どう?俺と寝てみる?」
暁はにやにやしながら、低音ボイスで囁いて、祥悟が怯んで何も答えられずにいると
「なーんてな。冗談冗談。んなマジな顔すんなって。それにしてもおまえ、ほんっと綺麗だな~。化粧とかそんな濃いわけじゃねえのにさ。すげえわ」
祥悟の顔をしげしげ見つめて、しきりに感心している。
……ちっ。同情して損した。なんなの、こいつ。なにこんな楽しそうなわけ? やっぱ軽薄なただの軟派野郎じゃん。俺の大事な里沙を弄びやがって。
ふつふつと沸き起こる怒りを飲み込んで、祥悟は演技を続行することにした。ちょっと哀しそうに表情を曇らせ
「冗談なんだ。そっか……そうだよね。やっぱり、俺じゃ、ダメだよね」
呟いてそっと目を伏せる。祥悟の反応が意外だったのか、へらへらしていた暁は少し慌てた顔になり
「へ?やっ。ダメっつうか、その、んーと……」
「俺、ゲイだけど、どうしてもあんたみたいなノンケの男、好きになっちゃうんだ。無理だって分かってるのにな……」
伏せた睫毛をふるふるさせて、しんみりと呟くと、暁は弱ったように頭をがしがしして
「う~~ん……。たしかにさ、俺は完全ストレートだしなぁ。今まで男相手にムラムラとか、したことねーし」
祥悟は目を潤ませて、暁をじっと見つめた。
「でも……俺とのキス、嫌じゃなかったでしょ?」
「う……それは……まあ、嫌じゃなかったっつーか……すっげー良かったけどさ」
暁の曖昧な態度に、祥悟はここぞとばかりに食いついた。切なげに瞳を揺らし、縋るような表情に色気を滲ませて
「俺、あなたのこと、好きになっちゃったみたい。ね……続き、しよ?」
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