574 / 605

番外編『愛すべき贈り物』123

身構えていた祥悟が拍子抜けするくらい、暁は楽しそうに笑うと 「胸見てもまだ信じらんねえっ。すっげーな、香織。こんな完璧な女装、俺初めて見たぜ~」 そう言って、嬉嬉として身を乗り出し、唖然としている祥悟の顔を両手で包んで覗き込む。 「……っ。なに、笑ってんだよ、あんた。…怒んねえの‍?」 「いや、完璧過ぎて怒る気になんねえって。俺さ、これでも一応、人間観察が基本な仕事してんだぜ? その俺がさ、ここまでコロっと騙されるって、おまえどんだけ美女だよ‍?」 怯んでいる祥悟の顔をまじまじと見つめて、暁は怒るどころかへらへらとご機嫌な様子だ。 ……むーー。なんか…ムカつく。 暁に意表をつかれるのにはだいぶ慣れてきたつもりだったが、男だとバラして、こんなあっけらかんとした反応をされるとは思わなかった。この男にちょっと同情的な気分になっていた自分に、無性に腹が立つ。 「ちなみに俺、男抱くのは初めてだけどさ、君みたいな美人だったらいけるかもしんねえな。どう‍?俺と寝てみる‍?」 暁はにやにやしながら、低音ボイスで囁いて、祥悟が怯んで何も答えられずにいると 「なーんてな。冗談冗談。んなマジな顔すんなって。それにしてもおまえ、ほんっと綺麗だな~。化粧とかそんな濃いわけじゃねえのにさ。すげえわ」 祥悟の顔をしげしげ見つめて、しきりに感心している。 ……ちっ。同情して損した。なんなの、こいつ。なにこんな楽しそうなわけ‍? やっぱ軽薄なただの軟派野郎じゃん。俺の大事な里沙を弄びやがって。 ふつふつと沸き起こる怒りを飲み込んで、祥悟は演技を続行することにした。ちょっと哀しそうに表情を曇らせ 「冗談なんだ。そっか……そうだよね。やっぱり、俺じゃ、ダメだよね」 呟いてそっと目を伏せる。祥悟の反応が意外だったのか、へらへらしていた暁は少し慌てた顔になり 「へ‍?やっ。ダメっつうか、その、んーと……」 「俺、ゲイだけど、どうしてもあんたみたいなノンケの男、好きになっちゃうんだ。無理だって分かってるのにな……」 伏せた睫毛をふるふるさせて、しんみりと呟くと、暁は弱ったように頭をがしがしして 「う~~ん……。たしかにさ、俺は完全ストレートだしなぁ。今まで男相手にムラムラとか、したことねーし」 祥悟は目を潤ませて、暁をじっと見つめた。 「でも……俺とのキス、嫌じゃなかったでしょ?」 「う……それは……まあ、嫌じゃなかったっつーか……すっげー良かったけどさ」 暁の曖昧な態度に、祥悟はここぞとばかりに食いついた。切なげに瞳を揺らし、縋るような表情に色気を滲ませて 「俺、あなたのこと、好きになっちゃったみたい。ね……続き、しよ‍?」

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!