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番外編『愛すべき贈り物』125
2人はそのまましばらくの間、無言で見つめ合った。縋るような祥悟の目を、暁は辛そうに見つめている。
……なんか、ムカつく……。そんな同情するような目で見るなってば。
誘惑してその気にさせて、罠にかけているつもりだったのに、これじゃあまるで、抱いてくださいとこっちが懇願してるみたいじゃないか。なんか……全然腑に落ちない。
祥悟はぷいっと目を逸らすと、苦笑いしてみせて
「ノリ悪いなぁ。もういいよ。別にこっちも本気ってわけじゃないし? そんな顔してまじレスされても、困るんだよね」
祥悟は暁の手を振りほどくと、脱ぎかけたガウンを羽織り直した。そのままベッドを降りようとした時、暁の手が伸びてきて、ぐいっと引き戻された。
「……は? ちょっ」
不意をつかれてバランスを崩した祥悟は、暁に後ろから抱き締められて息を飲む。
「ごめんな。傷つけたんなら謝るよ。たださ、君がゲイなら俺、遊びじゃ抱けねえ。なんつーか……それはやっちゃいけない気、すんだよな。女の代わりに目瞑って抱くとか、君に失礼過ぎんだろ? だから……ごめん」
暁の腕の力は強いけど、優しく温かく包まれている感じがした。いや、こっちも遊びだから、そういうとこ気を遣われても……。そう反論したくなったが、なんだか言葉が出てこない。
……なんかもうほんと、とことん調子狂っちゃうなぁ、こいつ
遊び人の癖に、変なとこ真面目で優しくて。ムカつくのに妙に憎めない。
……もういいや。めんどくさい。
ムキになって反論するのはやめて、祥悟は肩の力を抜き、暁の逞しい胸に身を預けた。
こんな風に緊張をといて、誰かに寄りかかるなんて、久しぶりだ。いつも、誰に対しても、身構えて心から甘えられないのは、こどもの頃からの癖だ。気を許したら酷い目に遭う。信じられるのは自分だけ。そんな風に無意識に自分の周りに見えない壁を張り巡らせている。それは施設に入る前の実親との関わり方からきているもので、そういう自分が嫌だけど、今更変えられない。唯一心から気を許せる相手だった里沙と距離を置くようになってからは、この傾向は余計に酷くなっていた。
……変なの。こいつとは今日会ったばっかなのにな。
多分、余計なしがらみがないから気が楽なんだ。いや、これまでも一夜限りの相手なんていっぱいいたけど、この男は居心地がいい。ほっとする。
……疲れてんのかな。俺……。
性的な絡みは抜きで、このまま抱き締められて眠るのもいいかもしれない。祥悟がそう思いかけた時、暁が呟いた。
「君が女の子だったらさ、俺、マジで惚れてたかもな。あ、そういや君、本名なんつーの? 男ってことは、香織って偽名だろ?」
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