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番外編『愛すべき贈り物』126
暁の何気ない呟きに、祥悟はピキッとなった。
……そうだった。こいつは里沙の男じゃん。心地よいとかほっとするとか、うっかり騙されてんじゃねーぞ、俺。
祥悟は眉を潜め、ボソッと呟いた。
「里沙からなんにも聞いてねえの?」
「へ?」
「俺の名前、祥悟。橘祥悟。あんたが弄んでる橘里沙の、双子の弟なんだけど?」
男だと明かした後、名乗らずにこの男とはバイバイするつもりだった。祥悟としては、暁の不実の証拠さえ手に入れさえすればよかったのだから。
でも、暁の反応がいろいろと意外過ぎて、この男の慌てふためく姿が見たくなってしまった。
後ろから抱き締められる力がゆるくなる。祥悟はもぞもぞと動いて、黙り込んでいる暁の顔を見るべく、後ろを振り返った。
予想通り、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔の暁と目が合った。ご丁寧に口までぽかんと開いている。
……うわ。超間抜け面。
この顔が見たかったんだと内心ほくそ笑みながら、祥悟が仏頂面でじとっと睨みつけると、暁ははたっと我に返って
「マジか……。そっか、双子の。モデルやってる弟くんか」
……ふうん。里沙、やっぱ弟いるって言ってたんだ、こいつに。
「そ。あんたさっき言ってたでしょ。俺に似てる知り合いがいるって。そりゃ似てるよね。双子なんだし?」
「うわぁ……マジかぁ……」
暁は祥悟から手を外して、自分の額を押さえた。まあ、当然の反応だろう。スケベ心で引っ掛けた相手が、よりにもよって恋人の弟だったなんて、普通はそうそうない展開だ。
不機嫌そうにジト目している祥悟を、指の間からちろっと覗き見た暁は、何とも情けない顔をして肩を落とした。
……いい気味。もっと焦れよ、浮気男。あんたがどんな言い訳するか見物だし。
ようやく手応えのある反応に会えて、祥悟が内心わくわくしていると、暁は耳の垂れたしょげ犬みたいな顔で恨めしそうに祥悟を見上げて
「これはマズイだろ~。里沙に怒られちまうぜ。よりにもよってさ、大事な弟くんに、危うく手出しかけたなんてな」
……そうそう、もっと焦れよ。こんなの里沙にバレたら、怒られるだけで済むもんか。修羅場だ、修羅場。
「いやいや、しっかし、やっぱすごいわ、おまえ。ほんとに里沙の弟かよ~。前に雑誌で見たことあるんだぜ。双子っつってもさ、全然違うタイプの美人になってんじゃん。俺まだ信じらんねえわ」
もっとあたふたすると思った暁は、またしても感心したように、祥悟の顔をまじまじと覗き込んでくる。祥悟はちょっと唖然として、暁の顔を見つめた。
……は?何なの、こいつ。自分の立場分かってんのかよ?……もしかしてちょっと足りないのか?
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