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番外編『愛すべき贈り物』129
「なあ、祥悟。俺のことさ、人雇って調べたのか?」
すっかり元の美人に化け終わった祥悟が、くるっと振り返る。
「気安く呼び捨てにすんな」
吐き捨てるようにそう言って、ハンドバッグを掴むと、質問には答えずにさっさとドアに向かう。暁は忘れ物がないかざっと部屋を見回してから、祥悟の後に続いた。
「祥悟……?」
ドアを開けた里沙が、祥悟と暁が並んで立っているのを見て絶句した。
まあ、当然の反応だろう。深夜に突然訪ねて来たのは、女装した弟とセフレなのだ。
祥悟は憮然とした顔で里沙を睨みつけて
「ドアベル鳴ってもすぐに開けるなって、前にも言ったじゃん。警戒心なさ過ぎ」
呆然としている里沙に断りもなく、押しのけてさっさと中に入って行く。暁は苦笑いを浮かべて、気まずげに里沙を見た。
「夜中に悪いな。祥悟くんに押し切られてさ」
里沙は目をパチくりさせて
「どうして貴方が……?え、貴方たち知り合いなの?え?祥悟ったら何故あんな格好で……」
頭の上に?を飛ばしている里沙に、暁は首を竦めると
「詳しく話すよ。中、入ってもいいか?」
「え、ええ……私は別に……構わないけど」
事態が分からず困惑しながら、里沙は暁を中に入れると、ドアに鍵をかけた。
先にリビングに入って行った祥悟が、ソファーにふんぞり返っている。暁は里沙の後に続きながら、さり気なく部屋を見回した。
里沙と出会ってから一年近く経つが、この部屋に入ったのは実は初めてなのだ。マンションの前まで送ったことは何度かある。でも、お互いの家の中で会わないのは、2人の暗黙のルールだった。
里沙はもう寝る寸前だったのか、風呂上がりのこざっぱりとしたノーメイクで、ゆったりとしたナイトドレスの上に、薄手のカーディガンを羽織っているだけだった。
祥悟にしても里沙にしても、さすがはモデルだ。スタイルも肌の美しさも、30歳を超えているとは到底思えない。
……いや、祥悟の素肌にはまだお目にかかっていないが……。
「何か飲む? 紅茶でもいれましょうか?」
キッチンに向かおうとする里沙の肩を、暁はそっと押さえて
「や。もうこんな時間だろ。なんも構わなくていいぜ」
里沙は暁と祥悟を交互に見て
「……そう。じゃあ、どういうことになってるのか、説明してくれる?」
暁は首を竦めると、ソファーにふんぞり返って不機嫌な顔をしている祥悟の向かいに、里沙と一緒に腰をおろした。
祥悟はスカートの裾からすらりと伸びた細く形のいい脚を組み、暁を睨みつけて何も言わない。暁は自分から説明していいのかどうか、祥悟の様子を気にして迷っているようだった。
里沙は困ったように祥悟と暁を見比べて
「じゃあ、私から質問ね。あなたたち、知り合いだったの?」
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