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番外編『愛すべき贈り物』131
穏やかだが、怒りを滲ませた祥悟の声に、里沙はいったん口を噤み、小さく溜め息をついて
「うん。じゃあ自分で答えるわ。暁と私はたまに会って寝るだけの関係。つまりセフレね。だから、お互いに他の誰と何をしようが、干渉したりしないわ。恋人じゃないもの」
祥悟が小さく舌打ちした。里沙はどこか痛むみたいに顔を顰め、祥悟から目を逸らす。膝の上で握り締めたこぶしが、少し震えているのに気づいて、暁はそっと、里沙の手に自分の手を重ねた。
しばらく重苦しい沈黙が続く。
やがて、祥悟は大きく息を吐き出した。
「意味、分かんねえ。なにそれ、里沙。おまえもあの業界に完全に染まっちゃってる感じなのかよ。セフレ?ふざけんな。そんな言葉、おまえには相応しくないだろ」
祥悟の言葉に、里沙はぱっと顔をあげた。
「相応しくないってなに?そんなこと、あなたに言われたくないわ」
一気に険悪な雰囲気になった2人に、暁が身を乗り出す。
「まあ、ちょっと待てって。祥悟くん、悪いのは俺だろ~?お姉さん責めるのは止めとけよ。今夜のことはさ、ふらふらして、祥悟くんの誘惑にほいほい乗っかった俺がアホだ。そういう話だよな?」
祥悟は組んでいた脚を外すと、暁の顔を睨みつけた。
「ああ、そうだね。全部あんたが悪い。里沙を誑かしたあんたがさ」
矛先を変えて、今度は暁に突っかかっていこうとする祥悟に、里沙は顔を歪めた。
「ねえ、止めて、祥。そんな言い方しないで。私は誑かされてなんかいないわ。ちゃんと分かってて、自分の意思で暁と付き合ってる。それでいいでしょ? 祥悟。私はあなたが思い込んでいるほど、いい姉でも聖人君子でもないわ。勝手な理想を押し付けるの、止めてちょうだい」
里沙の声に切実な響きが滲む。暁は里沙の手をぎゅっと握り締めた。祥悟はショックを受け、呆然として里沙の顔を見つめて黙り込む。
「あのさ、祥悟くん。君がわざわざ俺のこと調べて、今夜のこと仕組んだのって、お姉さんが心配だったからなんだよな」
険悪な雰囲気の2人の間に、再び暁が割って入った。祥悟は強ばった顔で暁を見て、ぷいっとそっぽを向いた。
「……だったら何?」
「いい弟なんだなって、羨ましいぜ。俺にはそういうの心配してくれる親兄弟、いないからな」
「……ふうん。あんたも親、いないんだ?」
「んー……。いや、俺の場合はいないっつうか、分かんねえんだよな。俺、交通事故でさ、それ以前の記憶、すっぽり失くしちまってるからな」
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