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番外編『愛すべき贈り物』133
里沙は俯いて、黙って首を横に振った。
「違うわ。そうじゃないの」
「あのさ。俺が里沙に偉そうなこと、言える立場じゃないって分かってるよ。俺だって、テキトーにあちこち遊んでるしね。ただ、里沙があの家出てから、なんか幸せそうじゃなくってさ。俺、ずーっと気になってたんだよね。もしかして、俺が家、出ちゃったせいなのかな?ってさ」
里沙はばっと顔をあげて、焦ったように首を振った。
「それは違うっ。あなたが出て行ったこととは、関係ないわ」
祥悟は探るように里沙の顔を見つめた。
「そうか? ほんとに関係ねえの?」
「うん。私は祥が出て行っちゃったの、もちろん寂しかったわよ。でも、もう子どもじゃないんだし、あなたにはあなたの考えがあるんだって思ったから。だからちゃんと納得してたの」
祥悟はほっとしたように笑って
「そっか。それならいいんだ」
里沙は少し言い淀んでから
「あのね、祥。私……ほんとはずっと後悔してたの。あなたを橘の家に来させたこと」
「え?」
「最初は私だけ養女にって話だったでしょ?でも……祥と離れたくなくて、私が我が儘言って。一緒に引き取られることになって、ほっとしてたけど……そのうち段々不安になってきて。もしかしたら祥は、あの家には来たくなかったんじゃないかって。私のせいで、祥に望まない人生、押し付けちゃったのかなって」
寂しそうに言う里沙に、祥悟は目を丸くして
「あーないない。それはない。え。そんなこと思ってたなんて予想外。俺、別にどっちでも良かったんだよね。ただ、俺が一緒だと、里沙の幸せの邪魔になんないか心配だっただけ」
「でも……あなた、居心地悪そうだったし。お義父さまとも……あまり気が合わなかったでしょ?」
祥悟はちょっと顔を顰めて
「や。気が合わないっていうか……父親っていうほど、歳、離れてないじゃん?あの人と。まあ、男同士だしさ、仲良くするってのも違う感じだろ?あ。でもさ、ちゃんと感謝はしてるんだよ。何不自由ない生活させてもらって、仕事も与えられてさ。あの家に引き取られなかったら、こんな贅沢な生活って絶対に出来なかっただろうし」
「喧嘩……したわけじゃないのよね?お義父さまと」
気遣わしそうな里沙の顔を見て、祥悟は首を竦めて苦笑して
「するわけないじゃん。仲良くはないけどさ、別に悪くもないし」
「そう……」
里沙はまだ納得していない様子だ。
「俺があの家出たのはさ、あの人に対して格好つけたいってのもあったんだよね。一応これでも男だし?出来るだけ自分のことは自分でしてさ、貰ったチャンス活かしてガンガン稼いで、少しずつ恩返ししていきたいなぁってさ」
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