587 / 605
番外編『愛すべき贈り物』136
「離せよ。馴れ馴れしく触んな」
祥悟は暁の手を振りほどくと、さっさと歩き出した。暁は首を竦めて後に続く。
「大通りに出たらタクシー拾うぜ。祥悟くん、君の家はどこだ?」
祥悟はムッとした顔で振り返り、暁を睨みつけた。
「あのさ。俺、あんたのこと許したわけじゃないの。自分でタクシー拾って帰るから、構うのやめてくれる?」
里沙とのやり取りで、すっかり毒気を抜かれたように大人しくなっていた祥悟が、また可愛げのないことを言い出した。
暁は首を竦めて、祥悟に歩み寄ると、
「祥悟くん、君さ。なんつーか……可愛いのな」
そう言って顔を覗き込んだ。
「はぁ?」
祥悟の眉間の皺がいっそう深くなる。
「や。里沙とおない歳なら、俺より上なんだろうけどな。君ってすっげーツンデレだよなぁ。うん、可愛いわ、マジで」
祥悟の顔が更に鬼のようになる。
「は?なにそれ?おまえ、俺に喧嘩売ってんの?」
「いやいやいや。喧嘩なんか売ってねえって」
暁は慌てて手を振りながら
「君さ。大好き過ぎるだろ、里沙のこと」
睨む祥悟に、暁は意外に真顔で
「ただのシスコンって感じじゃねえんだよなぁ。君、さっきの里沙とおんなじ顔してるぜ。自分の気持ちにがんじがらめになっちまって、途方に暮れてる……みたいな感じだな」
祥悟はキっと暁を睨んだまま
「おまえ、なんなの? いい加減にしろよ。へらへらして、人のこと馬鹿にしやがって」
「馬鹿になんかしてねえよ。たださ、愚痴聞くぐらいだったら、いくらでも付き合うぜ?」
「はっ。冗談。俺は里沙みたいなお人好しじゃないんだよ。おまえみたいないい加減な男に愚痴言うくらいならな、どっかで男引っ掛けて、気持ちいいことした方がマシだっての」
毒づく祥悟に、暁は自分の頭をガリガリかいて
「そういう格好でさ、綺麗な顔してんなこと言うなって。あーそうか。やっぱ君さ、里沙に似てんだわ。こうして改めて見ると、うん、似てる。やっぱ君ら、美人姉弟だよなぁ」
言いながらへらへら笑って、祥悟の肩を抱くと、促すように歩き始めた。
祥悟はすかさず暁の手を振りほどいて反論しようとして……止めた。こいつの言動にいちいちムキになって反応するのが、急にバカバカしくなってきた。
正直、どきっとしたのだ。
暁の鋭い指摘に。
里沙と話していた時、自分は極力感情を押し殺していたつもりだった。里沙への想いなんか、絶対に悟られないようにしていたはずだ。里沙は、気づいていなかった……と思う。
でもこの男は……。
自分の想いに踏ん切りをつけたくて、とうとう里沙を問い質してしまった。でも最後まで問い詰めることは出来なかった。
……なにやってんだろ、俺……。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!




