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番外編『愛すべき贈り物』139
祥悟は橘を睨みつけた。
「その続き、なんだか聞きたくないんですよね。それ、きっといい話じゃないでしょ」
「……里沙からは、何も聞いてないかな?」
……やっぱりかよ。やっぱりそういう話になんのかよ。くそっ。
「聞いてません。俺には関係ないですよ。悪いけど、本当に聞きたくないから」
「祥悟くん。私は後悔しているんだよ。里沙を自分の正式な養女にしてしまったことを。君と同じように養子ではなく、後見人という立場にとどめておくべきだった……とね」
自分の言葉を無視して話を続ける橘に、祥悟は激しく苛立った。
「あのさ。俺は聞きたくないって言ってるんだよ。そういう話は、俺抜きで里沙とすれば? 俺は関わる気、一切ないからなっ」
「だが、君は里沙の血の繋がった弟だ。まったく無関係ではないだろう」
祥悟は橘の話を遮るように、テーブルをバンっと叩いて立ち上がった。
「これ以上ここにいると、俺、あんたを殴りたくなると思う。だからこれで話は終わりだ。さようなら、橘さん。俺、近々事務所も辞めるつもりなんだよね。もう充分稼いだし、恩は返しただろ?この辺であんたともそろそろ縁を切りたいって思ってた。手続きなんかは事務所の方へ行きますよ。それじゃ」
まだ何か言いたげな橘にくるりと背を向けると、祥悟はそのまま足早に書斎を後にした。
橘の家を出た後、祥悟はそのまま里沙のマンションに向かいかけて……足を止めた。マネージャーに連絡して、里沙の今日のスケジュールを確かめようかとも思ったが、もし彼女がオフでマンションに居たとしても、今の自分の精神状態で、いきなり乗り込んでいくのはダメだ。
……くそっ。落ち着けよ。
もともと橘とは、初対面から何となくソリが合わなかった。だが、里沙の将来の為にと、なるべく距離を置くことで、今まで何とかやり過ごしてきたのだ。
「何が、後悔してる、だっての!ふざけんなよっあの男っ」
既婚者で、妻を大事にしている男だと思っていたからこそ、自分は里沙を残してあの家を出たのだ。
……5年前から妻と不仲?原因は何だよ?……まさかあいつ……里沙に手を出してやがったのか?
じゃあ、早瀬と部屋に乗り込んだあの時の、里沙の言葉は全部嘘か?本当は不倫していたのか?自分の養父と。そんな……まさかそんな……。
祥悟は激しい怒りに駆られて、通りに立つ電柱に、拳を打ちつけた。
里沙が自分に嘘をついた。あんなにも巧妙に。それがどうしても信じられない。彼女はそんな人だっただろうか。
「……5年前……?」
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