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番外編『愛すべき贈り物』141※
ドアが開いて、氷の入ったグラスとミネラルウォーターをトレーに乗せて、智也が部屋に入ってきた。ベッドに横向きに寝そべった祥悟が、物憂げに視線を向けると
「眠い? だったら上着、脱いで。そのままじゃ苦しいだろ」
サイドテーブルにトレーを置くと、ベッドに近づいてきた智也に、祥悟は両手を差し出して
「脱がしてよ」
智也はちょっと苦笑すると、祥悟の身体を抱き起こした。ジャケットを脱がせて、シャツのボタンを外してやる。祥悟はぼんやりしていて、大人しくされるがままになっていた。
智也が、脱がせたジャケットを椅子の背に引っ掛け、ミネラルウォーターを開けてグラスに注ごうとすると
「グラス、要らない。そのままでいい」
祥悟の言葉を無視して、水を注いだグラスを持って、智也は祥悟の隣に腰をおろした。祥悟は少し不機嫌な顔で智也を横目に睨みつける。黙って差し出されたグラスを見て首を横に振り
「飲ませて」
拗ねた声でねだる祥悟に、智也は首を竦めて、グラスを煽ると、祥悟を抱き寄せ唇を奪う。含んだ水が祥悟の口に流れ込む。智也の熱を含んだ水は、微妙に生ぬるい。祥悟はきゅっと顔を顰め
「氷も」
智也はくすっと笑って頷くと、今度は小さめの氷ごと口に含んで、祥悟に口づけた。開いた唇から水と氷が口移しされる。
……冷たくて気持ちいい……。
酔いに火照っていた身体が、少しずつクールダウンしていく。祥悟は智也の首に腕を回して抱きつくと、口の中で少し溶けた氷を、舌を絡めながら智也の口に押し戻した。祥悟の悪戯に、智也は口づけたまま目を見開き、祥悟をぎゅっと抱き締めて氷ごと舌を吸い上げる。
熱でどんどん小さくなる氷が、2人の間を行ったり来たりする度に、口づけは甘さと激しさを増していく。
やがて、とうとう氷が溶けてなくなると、祥悟は不満そうに鼻を鳴らし、智也の身体を押し戻すようにして口を外して
「もっと、氷」
祥悟は熱っぽく潤んだ目で、誘うように智也をじっと見つめた。熱くて冷たいこの戯れがひどく気に入ってしまった。気持ちが乗らない時は、しらけた気分でただ相手の愛撫におざなりに応えるだけなのだが、今はもっとして欲しくて堪らない。
「気に入った?」
智也は満足そうに笑って、祥悟の身体を放すと、またグラスを煽り氷を口に咥えた。戻ってきた智也にそのままベッドに押し倒される。
氷を咥えた智也にのしかかられて、見下ろされた。
「ちょうだい」
早く、と促すように唇を突き出すと、智也の顔が降りてくる。咥えた氷でツンツンと唇をつつかれて、祥悟は舌の先で氷をぺろぺろと舐めた。冷たい雫が口の中に流れ込む。味はないはずなのに、それは少し甘い気がした。
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