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夢見月2

「ねえ、暁さん。俺またカタクリの花、見に行きたいです」 暁の胸に甘えて頬をすりよせ、上目遣いでそう言うと、暁は優しく髪の毛を撫でて 「んー。今年はもう花終わっちまったからな。来年また行こうぜ」 そう言って、雅紀の唇にキスを落とす。 雅紀は花のような笑顔で、嬉しそうに頷いた。 「人にやり過ぎるなと言っておいて、貴弘、あなただってしつこいじゃないですか。ほら、また気を失ってしまった」 「これは私のものだ。どうしようと勝手だろう。見ろ、雅紀の顔を。幸せそうじゃないか」 枷を全て外してやって、ベッドに横たえた雅紀の髪を、桐島は愛おしそうに撫でている。瀧田は雅紀の顔をのぞきこみ 「本当だ。夢を……見ているのでしょうか?あどけない顔で微笑んでますね…」 「私の籍に入れば、これは毎日こうして幸せそうに、笑っていられる。大切に大切に守ってやる。もう他の男の慰みものになど、決してさせないからな」 夢見るような表情で、雅紀の頭を撫で、優しくキスを落とす桐島を、瀧田は皮肉な笑みを浮かべて見下ろしていた。 都倉の母校を後にして、暁は次に、都倉が暮らしていたマンションに行ってみた。都倉が借りていた部屋は、もちろん今は他の人が住んでいた。 都倉の母親は、都倉が高校生の時に、不慮の事故で亡くなっている。 ここは都倉が結婚した後に、配偶者と暮らしていた場所だ。 都倉の勤め先の藤堂社長は、都倉が結婚した時のことや、姿を消した時の経緯を詳しく話してくれた。 都倉は母子2人だけで子供時代を過ごし、高校の時に母親を喪ってからは1人で生きていたが、妻になった女性も、中学生の時に両親を事故で亡くし、親族の間をたらい回しにされて、高校卒業と同時に就職し、1人暮らしをしていた。 2人とも、家族の縁に恵まれない境遇だった。 2人は高校の時に出会い、数年の交際期間を経て、彼女の妊娠をきっかけに籍を入れた。暁が大学入学と同時に既に同棲していたので、入籍しただけで、結婚披露宴などはしなかったらしい。 暁はマンションの下に立ち、煙草にマッチで火をつけて、吐き出した煙を目で追いながら、都倉の住んでいた部屋を見上げた。 2人の幸せな新婚生活は、半年も続かなかった。ある日突然、都倉は妻とそのお腹の子供を喪ったのだ。 その1週間後、都倉は藤堂社長に会社を辞めると告げ、調べたいことがあるからと言い残して、自分の身辺を綺麗に整理して、仙台の地を去った。 孤独に生きていた2人が出会い、同じ境遇ゆえに共鳴し惹かれ合い、ようやく、縁の薄かった家庭というものを持ち、新たに生まれる家族を迎えようとしていた矢先の喪失。 都倉の嘆きは、哀しみは、どれほどだっただろう。 どんな思いで、1人残された孤独な1週間を過ごし、そして何を調べるために、どこに行ってしまったのか。 暁は煙草を携帯灰皿にねじ込むと、踵を返して、マンションを後にした。

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