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番外編『愛すべき贈り物』145
智也は祥悟の望み通りに、どろどろになるまで抱いてくれた。常ならば、お互いの家での逢瀬など、祥悟は決して許さない。そういうベタベタした付き合い方を、たとえ智也の方が望んだとしても、バカにしたように笑って一蹴するだけだ。ホテルでたまに会って、気楽なセックスを楽しむだけの関係しか求めない祥悟が、突然家に押しかけてきて、抱いて欲しいとねだるなんて、本当に珍しいことなのだ。でも智也は、余計なことは何も聞いてこない。ただひたすら、狂ったように快楽を求める祥悟に、黙って付き合ってくれた。
何度目かの絶頂の後、糸が切れたようにぐったりしてしまった祥悟から、智也は革の拘束具を外した。そのまま黙ってベッドを降りて、部屋を出て行く。
祥悟はぼんやりとドアの方を見つめていた。気だるくて、指1本動かすのも億劫だった。ずっと縛められていた腕は、痺れてしまって感覚がない。喘ぎ続けた喉もカラカラだ。
しばらくすると、智也が洗面器とタオルを持って戻ってきた。祥悟が放心したまま、智也のすることを目だけで追っていると、お湯に浸して絞ったタオルを手に近づいてくる。
「顔、拭くよ」
智也は囁いて微笑むと、祥悟の顔にタオルをあてる。涙と汗でベタベタの頬に、少し温かめのタオルの感触が気持ちいい。目を細めてされるがままの祥悟の顔を智也は優しく拭うと、いったんタオルをお湯で絞り直して、今度は首を拭い、丁寧に全身を綺麗に清めてくれた。
……ああ……気持ちいい……。
優しい手つきに、祥悟がとろんとした目をしていると、智也が顔を覗き込んでくる。ふふ…っと笑って
「眠い?いいよ、寝ても」
からかうような智也の声に、何か反論したくなったが、だんだん目蓋が重くなってきた。じわじわと襲ってきた睡魔に、祥悟は無駄な抵抗を諦めて目を閉じた。
目が覚めると、室内はまだ暗かった。身じろぎしようとして、身体が完全にホールドされていることに気づく。
智也の腕に後ろから抱き締められていた。まるで抱き枕のようにがっちりと抱かれて、ご丁寧に脚まで絡められている。
……ちっ。なんなの?こいつ。重たいっての。
祥悟は舌打ちして、智也のごつい腕を引き剥がそうとして……止めた。
抱き潰されてまだ身体がだるい。ただ、身体は疲れ果てていたが、ここに来た時よりも、心はだいぶ穏やかになっていた。
抱かれた後でベタベタされるのは苦手で、いつも事後はさっさとシャワーを浴びてホテルを後にした。寝た相手と朝までベッドで過ごすなんて、想像するだけでも嫌だったが、今はこのまま抱き締められて、微睡んでいたい気持ちの方が強い。
……なんだかなぁ……。
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