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番外編『愛すべき贈り物』146
祥悟は顔を顰めると、自分を抱き締めている男の顔を、そっと振り返って見つめた。
気持ちよさそうに寝息をたてているその顔が、ムカつくような可愛いような……。
……や。可愛くねーし。意味わかんねえから。
祥悟はぷいっと前を向くと、クローゼットの扉についた鏡をじっと睨みつけた。間接照明でぼんやりと照らされたベッドの上の自分と智也の姿が映っている。自分より頭ひとつ分は背の高い、がっしりした身体つきの智也に、まるでぬいぐるみのように抱き枕にされている自分。
……やっぱ……ムカつく。
寝落ちする寸前、甲斐甲斐しく世話を焼かれて、何やら甘い言葉を囁かれた気がする。しかも顔中に優しくキスされたような記憶がうっすらと……。
この男と今までこういう付き合いをしてなかったから、なんだか新鮮で、うっかり絆されてしまったのかもしれない。
……ばっかじゃねえの? 俺
橘に思いもよらないことを打ち明けられて、1人で勝手に荒れていたが、冷静になってみるといろいろ腑に落ちない。
里沙が自分にたとえ嘘をついていたのだとしても、橘と不倫しているはずの里沙が、何故、早瀬暁とセフレの関係を持つ必要があるのだ。橘の妻が別居状態になった頃に、里沙があの家を出ているのも、何となく納得いかない。そもそも、いくら子どもの頃と違うのだと言っても、里沙のやっていることはちぐはぐで、彼女のキャラクターと噛み合っていない気がする。
もう1度、橘の話を最初から思い起こしてみる。
橘が里沙を、養女としてではなく女として見ているのだということは分かった。夫婦の仲が上手くいっていないのも、それが原因のひとつなのだろう。でもそれは、果たして里沙も共犯なのだろうか?橘の一方的な想いなのではないのか?そもそも里沙は、橘の自分への想いに気づいているのだろうか。
………………。
「……わっかんね」
少し頭を冷やして、落ち着いて里沙の気持ちを確認した方がいいかもしれない。少なくとも、自分の想像は、橘の話だけを鵜呑みにしているに過ぎないのだから。
祥悟はもう1度、鏡に映る自分と智也の姿を睨みつけた。満ち足りた顔で、人を抱き枕にして安らかに眠る智也を見ていると、1人でじたばたしている自分がアホらしくなってくる。
「……重たいっつーの」
祥悟は呟くと、目を瞑った。今はこいつの重みと温もりに、包まれて眠りたい。次に目が覚めたら、絶対に文句を言ってやるけど。
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