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番外編『愛すべき贈り物』147
「触んな」
キスを仕掛けてくる智也の顔を、手でぐいっと押しのける。
「あ。起きてた?」
……起きてた?じゃねーし。分かっててやってんだろ、こいつ。
祥悟は自分を見下ろしている智也の顔を、ぎろっと睨みつけ
「朝からベタベタしてくんな」
「新鮮だな。君の寝起きの顔」
智也はそう言って微笑むと、性懲りも無くまたキスしようと顔を近づけてくる。祥悟はその顔を手のひらで制して
「どけろよ。重い。調子に乗んな」
智也はやれやれと言うように、身を起こして首を竦めた。祥悟は彼の下から這い出すと
「シャワー、貸して。浴びたら帰る」
「いいけど。今日は仕事?」
「……オフだけど?」
「だったら、ゆっくりしていけば?俺も休みだから」
祥悟はドアに向かいかけて立ち止まり、振り返った。
「それ、何の誘い?まだやり足りねえの?おまえ」
智也はふふっと吹き出して
「まさか。別にしなくていいよ。そういうの抜きで、のんびり過ごしていけば?ってこと」
祥悟は首を傾げ、ここで智也とのんびり過ごす自分を想像してみる。
……まったく想像出来ない。
「エッチ抜きで何すんのさ?」
智也はゆっくりと祥悟に歩み寄り、ふわっと抱き寄せて
「前に話してた映画のDVD観たり、食事や買い物に行ってもいい。要するに、普通の友人としての付き合い」
祥悟は智也の顔を怪訝そうに見上げて
「……ふうん。そういうの、俺やったことないけど?……楽しいわけ?」
「1度経験してみてもいいだろ?楽しいかどうか、やってみなきゃ分からない」
祥悟は智也の腕の中で、しばらく黙って考えていた。
どうせこれから家に帰っても、だらだら寝て、夜は適当に飲みに行ったり、誰かをホテルに誘って寝たりするだけだ。
里沙のマンションに乗り込むには、まだ気持ちの整理がついていないし……。
「……別にいいけど。付き合ってやっても」
ぷいっと目を逸らして、つまらなそうに呟く祥悟に、智也は微笑んで優しくキスを落とした。
たいして期待はしていなかった智也との休日は、しかし案外心地よかった。昼間に友人とたわいもないことをして時間を過ごすこと自体、祥悟には初めての経験だった。そんなの何が面白いのかと思っていたが、こういう何も裏のない付き合いというのは、気が楽でいい。
智也は意外と世話好きな男のようだが、祥悟が嫌がるようなことは仕掛けて来ないし、面倒な押し付けもしない。
最初は身構えていた祥悟も、徐々にリラックスしてきて、自宅で独りで過ごすよりものんびり出来た気がする。
智也は自炊はしないらしく、昼食は外食だった。その後、街に出掛けて、メンズショップやCDショップ、書店なんかをフラフラと見て歩いた。夕食も智也の馴染みの店でゆっくり食べて、部屋に戻ると、祥悟の方から誘って夜はベッドで過ごした。
「そろそろ、帰る」
エッチした後で、シャワーを浴びた祥悟がぽつんと切り出すと、智也は特に引き止めるでもなく穏やかに微笑んで
「送っていこうか?」
「や。いい。表でタクシー拾うし」
智也は祥悟の身体をふんわりと抱き締めて
「また、来てよ。連絡くれる?」
「ん……。智也」
「なに?」
「……ありがと。またな」
祥悟は何となく気恥ずかしくなって、ぷいっと顔を背けると、そそくさと智也のマンションを後にした。
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