599 / 605

番外編『愛すべき贈り物』148

それから5日後に、祥悟はマネージャーに里沙のスケジュールを確認して、仕事あがりに食事に誘った。 個室のある落ち着いた和食の店で、珍しく祥悟からの誘いに、里沙はちょっとはしゃいでいた。仕事ではほとんど絡むことのなくなった里沙の、子どもっぽい笑顔がやけに眩しい。 ゆっくり食事をしながら、里沙は年齢と共に少なくなってきた自身のモデルとしての仕事に、そろそろ見切りをつける準備をしているのだと、明るく話してくれた。 「少し前からね、いろいろ勉強を始めてるの。スタイリストとしてのね。それに、ブランドを立ちあげる話も頂いてて。私、今の仕事が好きだから、一線を退いても、やっぱり何かの形でずっと携わっていきたいの」 次の夢を語る里沙の表情はいきいきと輝いていて、祥悟の心は和んだ。里沙は全然浮ついてなどいなかったし、以前早瀬との関係を問い詰めた時のような暗い影も感じない。何かを吹っ切ったような、さばさばとした前向きな姿に、祥悟は静かに相槌を打ちながら、内心ほっとしていた。 「……ところでさ、里沙」 頃合いを見はからって、祥悟は何気なく切り出した。感情的にはならずに、出来るだけ冷静に話をしようと心に決めていた。 「なあに‍?」 「早瀬とはまだ続いてんの‍?」 祥悟の言葉に里沙は一瞬目を見張り、探るような目になった。 「なによ?またお説教‍?」 頬を膨らます里沙に、祥悟はにやっと笑って頬杖をついた。 「するかよ、説教なんかさ。俺、おまえに説教出来る立場じゃねえもん。これはさ、単なる好奇心」 里沙はすぐに警戒心を解いて 「最近はずっと会ってなかったわ。もう半年近くになるかな。でも、そういえばね、こないだ偶然カフェで会ったの」 里沙は何故かにこにこしていて、祥悟もつられて笑顔になり身を乗り出した。 「なに。ご機嫌じゃん。何かあった?」 里沙は少し勿体ぶったように口を噤み、思わせぶりな目をして 「ふふ。驚いたわ。暁ったら本命の恋人連れてたの」 「は‍?」 「すっごくいい雰囲気だったわ。私、暁のあんな顔、初めて見たかも。照れくさそうでね、その子のこと、大事で可愛くて仕方ないって感じ、滲み出てた」 くすくす笑う里沙に、祥悟は眉を顰めた。 「本命の恋人‍?……あの遊び人に‍?」 「そ。自分でも恋人だって言ってたけど、紹介される前に2人の醸し出す雰囲気で分かっちゃったわよ」 「……ふうん。どんな娘‍?可愛い‍?」 「うん。とっても可愛いこよ。パッと見はすごい美人さんなの。でも素直そうで優しそうで、礼儀正しくてね」 里沙があまりにも嬉しそうで、祥悟は首を傾げた。自分のセフレに本命彼女が出来て、なんでこんなにはしゃぐんだよ。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!