106 / 357

夢見月4※

ずっと引っ掛かっていた違和感。そう、タイミングがおかしかったのだ。 資産家の夕食会に招かれた雅紀。急に仙台に飛ぶことになった自分。話を聞いて欲しいと言っていた雅紀からの、突然のお別れメッセージ。 雅紀のアパートの部屋に置かれていた赤い薔薇。ストーカーされて衰弱していた雅紀。 暁を突然、東北に向かわせたのは桐島だ。その桐島が雅紀の愛人だった。だが、雅紀は何かから逃げていて、ひどく怯えていた。 もし、雅紀をストーカーしていたのが、桐島だったとしたら……。 田澤社長との電話を切った後、暁はもう一度雅紀からのお別れのメッセージを見直してみた。 ―俺、今すごく幸せです。 違う。これは雅紀の本心じゃない。これはきっと……雅紀からのSOSだ。 社長は雅紀とは直接連絡が取れないと言っていた。会社に問い合わせても、出張中との返事。今朝も会社には出社しておらず、おそらくは夕べからその資産家の別荘に泊まりこみで、暁のアパートにももちろん戻ってはいない。上司はその件には固く口をつぐみ、同僚たちも何も知らないと口を揃えた。ただ1人、雅紀の先輩にあたる杉田という社員が、直接その件には関わっていないが、雅紀のことを心配していて、気になる情報をくれた。 夕食会に雅紀を招待したのは瀧田総一。資産家だが謎の多い人物で、以前杉田が仕事で関わった時に、嫌な噂を耳にしたらしい。 瀧田はdollのコレクターで、その趣味が高じて、自分好みの男の子を見つけては、自分の屋敷に連れていって、着せ替え人形にしているという。あくまで噂話の領域を出ないが、人形にされた少年や青年のうちの何人かは、その後、病院に入院したり廃人同然になった者もいると。 もし、その瀧田が桐島と繋がっているのであれば、雅紀は今頃…… 「くそっ」 暁は雅紀に電話をかけてみた。繋がらない。 「雅紀っ」 暁は店の中に入って精算をすると、再び外に飛び出し、駅に向かって走り出した。 いつまでも穏やかな微睡みの中にいたいのに、意識が覚醒していく。優しく抱き締めてくれていた暁の腕が、離れ遠ざかっていく。 ……暁さんっ待って。俺を一人にしないでっ… 「雅紀」 ……お願い。連れていって。 俺、もう一人は嫌だ。 ねえ、俺をそっちへ連れていってよ。 「雅紀。目を覚まして。夢の時間はおしまいです」 肩を揺すられ、いやいや目を開けると、暁の笑顔は幻のように消え、目の前に妖しく笑う瀧田の顔が見えた。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!