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番外編『愛すべき贈り物』151
その後は当たり障りのない話をして、里沙をマンションに送っていった。無邪気で鈍感な姉は、泊まっていけとまたうるさく引き留めてきたが、祥悟は苦笑いして自分のマンションに戻った。
はっきりと橘の名前を出したわけじゃないが、一応、里沙の気持ちは確認出来たと思う。
やはり橘の話は、里沙と示し合わせてのことじゃない。いずれ、里沙本人に打ち明けるつもりなのかもしれないが、それは出来れば阻止したい。
ずっと片想いだと思い込んできた相手に、想いを打ち明けられたら、里沙の心は絶対に揺れるだろう。でも、それで両想いになったとしても、相手は一生結婚することも出来ないバツイチの男なのだ。里沙が幸せになれるはずがない。
……あいつが里沙に余計なこという前に、何か手、打たないと。
「ったく。襲っちまうよ」
祥悟は里沙に覆い被さるようにして顔を覗き込み、そっと小声で呟いた。
「俺の方が病人なのにさ、なーんでおまえがくーくー寝てるんだよ」
一緒にこの部屋に泊まって看病すると里沙は張り切っていたが、このままだと本当にやりかねない。
……マネージャー呼んで、里沙の部屋、別に取ってもらわないとな。
思いついて自分のスマホを取りに行きかけて、祥悟はちっと舌打ちした。
……そうだった。橘の野郎が来てるんだっけ。
出来ればあの男とは顔を合わせたくない。
橘は、里沙の気持ちが分からなくて混乱している祥悟を、事務所に呼び出して告げたのだ。
里沙の最後の撮影の後、自分の気持ちを彼女に打ち明けるつもりだと。
もちろん祥悟は反対した。
里沙は未婚で橘より15も若い。これから先、いい人を見つけて結婚することだって出来る。養子縁組をした橘と付き合うということは、表立っては人に言えない日陰の身になるということだ。自分のエゴで里沙をそんな立場にする気か?と息巻く祥悟に、橘は余裕の笑みを浮かべて
「里沙は私を愛している。私も彼女を愛しているよ。今の時代、結婚だけが幸せの形とは限らない。私と里沙、お互いが納得しているなら、結婚などしなくとも、寄り添いあって生きていけるはずだ。何より彼女が今後やりたい仕事の、私は完璧な後ろ盾になれる財力もコネクションもある。下手な男に引っかかって人生を台無しにするより、里沙は私の側にいた方がいいと思わないか?」
そんなのは詭弁だ。
里沙が橘のことを好きなのは、多分間違いない。好きな人がいて、その相手は結婚出来ない人だから、自分は一生結婚はしない。そう里沙の口から自分も聞いた。
でも……。
養父の立場や仕事上の立場を利用したような、橘の考え方が気に入らない。それは何か違うと思うのだ。だから祥悟は橘に言った。
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