603 / 605
番外編『愛すべき贈り物』152
「里沙が本当にあんたのことが好きで、他の人なんか考えられないっていうんなら、告白でもなんでもしたらいいさ。それで里沙が幸せだっていうなら、俺が反対したって無駄だろ。ただ、俺はそういうの、納得出来ない。そういう関係になるっていうなら、里沙ともあんたとも縁を切る」
「君は里沙のたった1人の肉親だよ。だから君にだけは我々のこと、理解してもらいたいな。里沙だってきっと、それを望んでいるはずだ」
「ばっかじゃねえの?あんた。弟の俺に向かって、よくそういうことが言えるよな。だいたい、里沙の気持ち、確かめてみたのかよ?その自信はどっから来るのさ」
「里沙の気持ちは、誰よりも理解している。彼女を幸せに出来るのは、私だけだよ」
話にならない。
どこまでいっても、橘との会話は平行線だった。
だから……祥悟は決めたのだ。
お人好しで世間知らずな里沙が、狡猾な養父に上手く丸め込まれてしまう前に、こちらは別の手を打つ。橘の思惑通りには絶対にさせない。
独身で、里沙が少しでも心を許せる相手なら、この際、セフレだった早瀬暁でもいい。
いや、むしろ、相手が暁ならば、自分も納得出来るのだ。
ストレートの暁に男の恋人が出来たと聞いて、最初、祥悟はタカをくくっていた。
あれだけ派手に女を取っかえひっかえしている男だ。女に食傷気味になって、少し毛色の違った相手にふらふらとなびいただけだろうと。
実際に会ってみたその相手、雅紀は、たしかに目を見張るような綺麗な容姿だったが、大人しくて素直なだけの色気に乏しい、ごく普通の青年だった。出逢って惹かれ合った状況が特殊だったから、妙な保護欲が湧いただけなのだろう。
恋の初めの熱に浮かされた錯覚なんて、少し時間が経てば冷める。最初は珍しくて夢中になっていても、暁はそのうち女の柔らかい身体が恋しくなるはずだ。だから、雅紀を脅して距離を置かせて、里沙に暁を近づけさせた。
「ほんとは誰にも、渡したくないんだけどね……」
祥悟はマネージャーに連絡を取るのは止めて、スマホを放り出すと、再び里沙の傍に歩み寄った。ずっとずっと好き過ぎて、もう胸の痛みも感じないくらいに慢性化している。
「ねえ、里沙。あいつのものにだけは、なるなよな」
祥悟は小さく呟いて、里沙の上にかがみ込んだ。そっとそっと、唇ではなく鼻の頭にキスを落とす。
里沙が眉を顰めた。ぴくぴくっと目蓋が震え、ゆっくりと目を開ける。
「おはよ。眠り姫」
すぐ目の前でそう言って笑う弟に、里沙は無邪気に微笑み返し
「おはよう。って……あ、私、眠ってた?」
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!




