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番外編『愛すべき贈り物』153
「うん。ぐっすりね。変な寝言まで言ってたし」
里沙は一瞬目を見張り、祥悟の表情で冗談だと分かると、くすくす笑い出した。
「うそ。寝言なんて。でも……なんだか楽しい夢、見てた気がするわ」
「そっか。ところでさ、里沙。今夜はほんとにこの部屋、泊まる気?」
「ええ、もちろん。いいでしょ?ツインなんだし、私がこっちで寝ても」
起き上がる里沙に、祥悟は手を貸してやりながら
「ダメだよ。里沙は女の子でしょ。いくら姉弟でも、隣で寝られたらさ、俺、襲っちゃうかもよ?」
里沙はまたしても楽しげにくすくす笑って
「馬鹿ね、祥悟ったら。冗談ばっかり。でも、さっきより顔色、良くなったみたいだわ」
「うん、そうねー。姉貴の献身的な看病のお陰かな?」
にやにやしている祥悟に、里沙はぷくんと頬をふくらませた。
「わ、可愛くないわね。それ、嫌味でしょ」
「冗談。怒るなよ。俺のせいで昨夜は眠れなかったんだろ?ごめん、ほんとに」
珍しく真面目な顔をして、殊勝な態度で謝罪する祥悟に、里沙は優しく微笑んで
「無事でよかったわ。ほんと。あなたに万が一のことがあったら、私、生きていけないもの」
……大丈夫だよ、里沙。おまえが幸せになるの、見届けないうちは、俺、絶対に死なないし。
祥悟は心の中でそっと呟くと
「ところでさ、里沙。おまえにちょっと確かめたいこと、あるんだよね。俺の質問に正直に答えて?」
「なあに?改まって」
「橘のさ、お義父さんのこと」
にこやかだった里沙の表情が、微かに曇った。出来ればそんな顔はさせたくないけど、いい加減、里沙の本音が知りたい。
ベッドに座る里沙の隣に祥悟は腰をおろすと、気持ちを落ち着ける為に深呼吸した。
いつもと違う空気を纏った祥悟の横顔を、里沙は神妙な顔つきで見つめている。
「お義父さまの、ことって?」
「うん。あのさ、俺に嘘はつかないで欲しいんだ」
「……もちろん。嘘なんか言わないわ」
「里沙がずっと片想いしてる相手ってさ、橘、だろ?」
隣で里沙が小さく息を飲む。祥悟はちらっと里沙を見て、また視線を床に落とした。
しばらく沈黙が続いた。里沙は俯いて、両手を膝の上でにぎにぎさせ、どう答えようか思案している様子だった。
やがて、観念したように吐息をつくと
「……うん。そうよ。橘のお義父さま。初めて会った時から、ずっと……好きだったわ」
とうとう質問してしまった。そして、とうとう里沙の口から答えを聞いてしまった。
祥悟はつきつきする胸の痛みをぐっと押し殺す。
「告白……したんだよな?あいつに」
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