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哀しい嘘。近くて遠い月3

「分かりました。それほど言うのなら、可愛い君に免じて、暁くんは帰してあげましょう」 瀧田の言葉に雅紀はほっとして、表情をゆるませた。 「でもね。君に会わせずに帰しても、彼は納得しませんよ。だいいち、帰ろうとはしないでしょう。だからね…」 瀧田は雅紀の耳に口を寄せ、妖しく囁いた。雅紀の目が大きく見開かれていく。やがて雅紀は顔を歪め、ガックリと項垂れた。 「優しい彼が、未練を残さないようにね。もう2度と君に会いたいなどと思わなくなるように、徹底的にです。それが君に出来る、彼への最後の愛の証ですよ」 暁は、客間の中を歩き回っていた。 瀧田のセカンドハウスに到着し、呼び鈴を鳴らすと、映画にでも出てきそうな執事が現れ、一度は丁重にお断りされた。 約束もなくこんな時間だ。すんなり通されるとは思っていない。暁は主人に自分の名前を伝えてくれるよう頼み、執事は屋敷に戻っていった。 しばらくすると、先程の執事が来て、門が開いた。まっすぐ玄関にではなく、広い庭を横切り、建物のぐるりと裏側の通用口から、中に案内された。迷路のような廊下を通り、部屋のひとつに通され 「しばらくこちらでお待ちください」 執事はそう言って部屋を出て行った。 椅子に座り、ジリジリしながら10分待った。どうやらすんなり会わせる気はないらしい。 暁は立ち上がり、部屋のドアを開けようとして、やっぱりな…というように首をすくめた。鍵がかけられている。 得体の知れない、アポもない人間が、夜中にやってきたのだ。当然の用心だろう。暁が主でも同じことをする。 さて。どうするか。 こっそり出る方法はないかと、天井裏や窓を調べていたら、ドアがノックもなく開いた。 いかにもボディガードな雰囲気の黒服の男たちが3人。暁は内心ため息をついた。 ……痛めつけて追い出すんなら、最初っから通すなよな。 暁が鋭い視線を向けると、男の一人が苦笑して 「やる気満々のところ悪いが、俺たちが今のところ命じられてるのは、あんたを別の部屋に連れて行くことだけだ。ついてこいよ」 肩透かしをくらって、暁は首をすくめると、その男に続いて部屋を出た。他の2人も後に続き、男3人に囲まれた形で廊下をすすむ。 入り組んだ廊下を歩き、大きなドアの前で、男は立ち止まりベルを鳴らした。 中から応答があり、ドアが自動で厳かに開く。 ……無駄に金かけてやがる。なんだ?この屋敷。いちいち芝居がかってて… 部屋の中を見て、暁は目を丸くした。本当に映画にでも出てきそうなアンティークルームだ。

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