112 / 369
哀しい嘘。近くて遠い月2
「客?こんな時間に?」
「はい。お約束もなく、非常識だと断りましたが、立ち去ろうとしません。セキュリティを呼びますか?」
瀧田は首を傾げ、
「私の名前を言って訪ねてきたの?どんなヤツ?名前は?」
「はい。早瀬暁と名乗る長身の男です」
瀧田は、目を見張り、すぐに面白そうに頬をゆるめ
「へえ……早瀬暁。そう、彼が乗り込んできたのですか。それは素敵だ……。君、セキュリティはいいから、梶たちを呼んで。それと、早瀬暁は裏口から1階の客間に通しておきなさい」
「はい。かしこまりました」
使用人が一礼して部屋を出て行くと、瀧田はうきうきした足取りで、コレクションルームに向かった。
雅紀は椅子の上で、だらしなく足を開かされたまま、放心している。瀧田はほくそ笑みながら雅紀に近寄り
「雅紀。君の大好きな早瀬暁が来てくれましたよ」
「……あ……きら……さん…?」
「そう。あきらくんです」
ぐったりしている雅紀の足枷を外し、後ろ手にしていた腕輪の鎖も外すと
「ふふ。向こうからわざわざ飛び込んできてくれたんです。歓迎してあげなくてはね」
瀧田の言葉がようやく理解出来たのか、雅紀の顔が強ばりだす
「……暁さん?暁さんが……ここに?」
「嬉しいでしょう?夢の中じゃなくて本物に会えるんです」
雅紀は青ざめ、首を横に振り
「や……だめ……っ…暁さん……来ちゃだめだっ」
「下の客間で待っていますよ」
雅紀はがくがくと力の入らない身体を必死に動かし、瀧田にすがりついた。
「待って。暁さんは、帰してくださいっ。……あぁ……お願い……暁さんにはひどいこと……っしないって…」
「向こうから勝手に来たのですよ。君に会いたいと言っているそうです」
雅紀は泣きながら首を激しく横に振った。
「会わないっ……会えない……っ俺、会いたくないっ。ぁ……お願いです、瀧田さん、彼を追い返してくださいっ」
「おやおや。冷たい恋人だ。さて。どうしましょう?私としてはせっかくの余興を、楽しみたいのですけど」
「お願いしますっ。何でもしますっ。暁さんをここから出してあげてっ。俺ちゃんと言うことききますからっ」
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!