606 / 618
番外編『愛すべき贈り物』155
里沙は何故かもの言いたげに、祥悟の目をじっと見つめてから
「嫌なこと……っていうより、なんだろう、思い込みが激しいのかな?って。彼、昔は私の話をすごく穏やかに聞いてくれる人だったのに、ちょっと違ってた。話が噛み合わないっていうか……こっちの言うこと、聞いてるようで全然耳に入ってないっていうか。ああ……変わっちゃったのかな?って、ちょっと哀しかったわ」
「ふうん……」
……いや、昔からあいつはそういう奴だったろ。っていうか、里沙には違う面見せてたってわけか。
里沙はちょっと難しい顔をして
「話してて最初からちょっと違和感あったんだけど、ひとつ、どうしても納得いかないこと、言われて。違うって私が言っても聞いてくれなくて。それがすごく……嫌だったの」
出来ればその内容について、もう少し詳しく聞きたい。どう聞き出せばいいかと、祥悟は思案していた。
勢い込んで質問するのはダメだ。さり気なく……里沙の心の扉が閉まってしまわないように……。
「奥さんと上手くいってないってのは、俺も前に聞いたよ。なんか揉め事あったみたいだよな」
里沙は途端に眉をしかめて
「原因は、浮気みたい」
「っ。浮気って……橘の?」
「ううん。奥さんの方よ」
……マジか。そいつは……初耳。
「へえ……あの人が。意外だったな」
里沙はまた真顔で祥悟をしげしげと見つめて
「意外じゃないわ。奥さんの方は、昔からそういうの、あったし」
祥悟は目を見張った。里沙の口調が少し冷たくて、それこそ意外だった。
「へ?昔から?なんだよ、それ。俺は知らないよ?」
きょとんとする祥悟に、里沙は苦笑いして
「祥は、知らなくていいの。関わり、持たない方がいいわ」
「うわ。何それ。そんなこと言われたら、余計気になるじゃん?」
口を尖らす祥悟に、里沙はくすっと笑って
「祥は……純粋で優しいから」
里沙のしみじみとした言葉に、祥悟はますます目を丸くした。
……や、純粋で優しいのは、おまえだろ。俺は全然、汚れちゃってるし。
祥悟は内心、ひどく混乱していた。里沙の言葉がさっきから、予想外過ぎて頭が追いつかない。
「人って分かんねえな。橘と奥さんって俺、ずっと円満夫婦なんだって思ってたし」
拗ねたように呟く祥悟に、里沙は宥めるように微笑んで
「そうね。分からないものよね。人の気持ちなんて、変わっていくものなんだなーって、思うわ」
祥悟はちらっと里沙の顔を確認した。里沙の表情はすごく穏やかで、思い悩んでいるようには見えない。
人の気持ちは変わる。
だったら……だったら里沙も、変わったんだろうか。久しぶりに話をした橘に、昔とは違う一面を見つけて、もしかしたら吹っ切れたんだろうか。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!




