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番外編『愛すべき贈り物』155

里沙は何故かもの言いたげに、祥悟の目をじっと見つめてから 「嫌なこと……っていうより、なんだろう、思い込みが激しいのかな?って。彼、昔は私の話をすごく穏やかに聞いてくれる人だったのに、ちょっと違ってた。話が噛み合わないっていうか……こっちの言うこと、聞いてるようで全然耳に入ってないっていうか。ああ……変わっちゃったのかな?って、ちょっと哀しかったわ」 「ふうん……」 ……いや、昔からあいつはそういう奴だったろ。っていうか、里沙には違う面見せてたってわけか。 里沙はちょっと難しい顔をして 「話してて最初からちょっと違和感あったんだけど、ひとつ、どうしても納得いかないこと、言われて。違うって私が言っても聞いてくれなくて。それがすごく……嫌だったの」 出来ればその内容について、もう少し詳しく聞きたい。どう聞き出せばいいかと、祥悟は思案していた。 勢い込んで質問するのはダメだ。さり気なく……里沙の心の扉が閉まってしまわないように……。 「奥さんと上手くいってないってのは、俺も前に聞いたよ。なんか揉め事あったみたいだよな」 里沙は途端に眉をしかめて 「原因は、浮気みたい」 「っ。浮気って……橘の‍?」 「ううん。奥さんの方よ」 ……マジか。そいつは……初耳。 「へえ……あの人が。意外だったな」 里沙はまた真顔で祥悟をしげしげと見つめて 「意外じゃないわ。奥さんの方は、昔からそういうの、あったし」 祥悟は目を見張った。里沙の口調が少し冷たくて、それこそ意外だった。 「へ‍?昔から‍?なんだよ、それ。俺は知らないよ‍?」 きょとんとする祥悟に、里沙は苦笑いして 「祥は、知らなくていいの。関わり、持たない方がいいわ」 「うわ。何それ。そんなこと言われたら、余計気になるじゃん?」 口を尖らす祥悟に、里沙はくすっと笑って 「祥は……純粋で優しいから」 里沙のしみじみとした言葉に、祥悟はますます目を丸くした。 ……や、純粋で優しいのは、おまえだろ。俺は全然、汚れちゃってるし。 祥悟は内心、ひどく混乱していた。里沙の言葉がさっきから、予想外過ぎて頭が追いつかない。 「人って分かんねえな。橘と奥さんって俺、ずっと円満夫婦なんだって思ってたし」 拗ねたように呟く祥悟に、里沙は宥めるように微笑んで 「そうね。分からないものよね。人の気持ちなんて、変わっていくものなんだなーって、思うわ」 祥悟はちらっと里沙の顔を確認した。里沙の表情はすごく穏やかで、思い悩んでいるようには見えない。 人の気持ちは変わる。 だったら……だったら里沙も、変わったんだろうか。久しぶりに話をした橘に、昔とは違う一面を見つけて、もしかしたら吹っ切れたんだろうか。

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