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番外編『愛すべき贈り物』156
「なあ、里沙。もし……もしさ、あいつが……橘が、おまえのこと」
ーピンポーン
不意に、部屋のチャイムが鳴った。祥悟はびくっとして里沙と顔を見合わせ、ドアの方を振り返る。
「誰かしら?渡会さん、かな」
……ちっ。なんでこのタイミングだよ。今、大事なとこだったってのに。
祥悟は思わず舌打ちすると、立ち上がろうとする里沙を押しとどめて、ドアの方に向かった。
「はい」
インターフォンで返事をすると
「お。祥か? 俺だ、俺」
……早瀬かよ。
祥悟はしかめ面をして
「今、取り込み中。後にしてくんない?」
「おいこら。後にしてくんない?じゃねーっつの。開けろ」
祥悟は眉に皺を寄せてため息をついた。
「祥。開けてあげて。暁と雅紀くんに、ちゃんとお礼言わないと」
里沙の言葉に、祥悟はちょっと考え込んだ。
せっかく里沙に本音を聞ける雰囲気になったのに、気が削がれてしまった。もしここで、暁を追い返しても、里沙は納得しないだろう。落ち着いて話が出来る状態じゃなくなる。
……しょうがないなぁ。ま、いいや。ちゃっちゃとお礼言ってお説教くらって、面倒なことは先に済ませちまおう。今日はここに泊まるみたいだし、里沙とはその後ゆっくり話せるし。
祥悟はしぶしぶ気持ちを切り替えると、
「はーい。今、開ける」
そう返事をして、ドアのロックを外した。
ドアが開いて、すぐに部屋に踏み込んできたのは暁だった。その後に続いて顔を見せたのは雅紀。祥悟は首を竦めて、里沙のいる方に戻る。
「祥悟さん、身体の具合、どうですか?」
雅紀の気遣わしげな問いかけに、祥悟はちょっと気怠げにベッドに腰を下ろすと
「ありがと。雅紀。あれからちょっと横になったら、だいぶ良くなったよ」
「そう。よかったぁ」
祥悟は両手を後ろにつくと、目の前に来た暁を見上げた。
ほっとして微笑む雅紀とは対照的に、暁は仏頂面だ。
……怒ってるよね。まあ、当然だよな。可愛い恋人、危うく変態プレイの道連れにされかけたんだし。
「祥。その顔、反省してねえだろ」
暁が憮然とした顔で祥悟を睨みつけると、挑むような顔をしていた祥悟が、ちらっと雅紀を見てから表情を引き締め首を振った。
「……いや。反省してる。雅紀巻き込んで、ごめんなさい」
予想していたのと違う、祥悟の殊勝な態度に、暁はちょっと目を見張った。
祥悟の顔にふざけたような様子はない。珍しく真面目な表情で暁をじっと見上げ
「あんなことになるとは、マジで思ってなかったんだ。俺の読み、甘かったと思う。雅紀、怖い思いさせて、本当にごめんね」
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