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番外編『愛すべき贈り物』158

「おまえね~。追い払ったり出来るかよ」 呆れた様子の暁に、祥悟が反論しようとした時、ドアが開いた。 姿を現したのは、マネージャーの渡会と橘だった。 「祥悟くん。悪いが少し、話をさせてもらうぞ」 言いながら乗り込んできた橘に、祥悟は舌打ちして立ち上がる。 「や。俺、あんたと話すことなんか何もないね。追い払えないならいいよ。俺が出て行く」 側をすり抜けようとして、橘にがしっと腕を掴まれた。 「祥悟くん。逃げるのはなしだ。これはビジネスについての話だよ」 「は‍?ビジネス‍?」 「クライアントが契約不履行で訴えると言ってきている。今回の撮影が、大手企業2社がコラボした企画で、かなり大掛かりなものだったのは、君も知っているよね?こちらの都合で撮影は中止。押さえていた現場も人も機材も、スケジュール全てが飛んでしまった。これは……訴えられても仕方ない事態だよ」 橘の言葉に、はらはら見守っていた里沙が飛び上がった。 「待って、お義父さま! 今回のこと、祥は被害者ですっ。祥は無理矢理……」 「里沙。おまえは黙っていなさい。たしかにやむを得ない事情はあったかもしれない。だが、祥悟くんの軽率な行動がそういう事態を招いたのだよ。そんな言い訳は、先方には通じない」 祥悟は橘の手を振りほどくと 「わかりましたよ。確かに全部俺の責任ですよね。じゃ、具体的に俺はどうしたらいいんです?まずは先方に詫び入れに行った方がいいですか?」 橘は祥悟をじっと見つめると 「もちろん、お詫びには行ってもらうよ。私も一緒に頭を下げに行く。もう1度、撮影の機会を作ってもらって、何としても企画自体が流れてしまう事態だけは避けたい。だが、それだけでは足りないな」 橘の方に歩み寄ろうとしていた里沙の腕を、暁が掴んで引き止める。橘はそんな暁を怪訝そうにちらっと見て 「悪いが君、里沙を連れて別の部屋で待っていてくれないかな?私は祥悟くんと一対一の話がしたいのだ」 「お言葉ですが、こういう場合、一対一だと感情論になってしまう恐れがありますよね。冷静に話し合う為にも、マネージャーさんと俺が立ち会います。雅紀、里沙を俺らの部屋に連れてってくんねえか?」 「いやよ、暁、私は行かないわ!」 即座に抗議した里沙に、暁は静かに首を横に振り 「後できちんと話してやるから、とりあえずこの場は俺らに任せてろ。な‍?」 納得がいかない表情で尚も言い募ろうとする里沙に、雅紀がそっと歩み寄った。 「里沙さん。大丈夫。暁さんに任せましょう?……ね‍?」 穏やかに諭されて、里沙は不安気に祥悟の顔を見た。祥悟は安心させるようににこっと笑って 「里沙。なんにも心配要らないって。話ついたらおまえんとこ行くよ。雅紀くん、里沙のこと……頼むね」 雅紀は微笑んで頷いた。里沙はまだ不安そうに、雅紀に促されながら部屋を出て行く。

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