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番外編『愛すべき贈り物』159

里沙と雅紀が退室すると、橘はもう1度祥悟を睨み付けた。 「祥悟くん。先日話をしていた独立の件は取り消しだ。君は確かに我が社に多大な利益をもたらしてくれた。その働きに対して、私だって感謝の気持ちがないわけではない。だが、君を施設から引き取り、才能を開花させる手助けをしたのは私だ。君は確かに稼ぎ頭だったが、トラブルメーカーでもあったよね。数々のスキャンダルを、公にならないように揉み消してきたのは私なのだよ。それを忘れてもらっては困る」 祥悟は片方の眉を上げ、ふんっと鼻を鳴らして 「狡いな、あんた。今回の件だけじゃなくて、昔のことまで持ち出してくんのかよ?」 「狡くはないさ。物事というのは積み重ねだ。君は我が社に貢献してきたが、常に何をしでかすか分からない爆弾でもあった。今回の件は、君が今まで慢心していたことのツケが回ってきたに過ぎない」 祥悟は首を竦めると、もう1度ベッドに腰をおろして、脚を組んだ。 「で‍?俺の独立話を潰して、あんたに何のメリットがあんだよ?何しでかすか分かんねえ爆弾ならさ、とっとと放り出した方が会社の為じゃねーの‍?」 苦笑してみせる祥悟に、橘はふんっと鼻を鳴らして 「そうだな。先日の話を鵜呑みにすれば、君は単身でフリーになるということだったからね。トラブルメーカーには消えてもらった方が我が社の為になる。ただな、祥悟くん。私の情報網を甘く見てもらっては困るよ」 祥悟の目がきゅっと細くなった。ちらっと渡会の方を見る。渡会は、祥悟に鋭い目で睨めつけられて、すいっと目を逸らした。 「いろいろ裏で動いていたようだが、君の独立はどうやら怪しい紐つきだったらしいね。君だけじゃなく里沙や他のモデルたちにも、引き抜きの話がきているそうじゃないか。恩を仇で返すというのは、こういうことじゃないのかな?」 祥悟はちょっと意表をつかれた顔になり、首を傾げた。 「は‍?意味分かんねえし」 2人のやり取りを黙って見守っていた暁が、眉を顰めて祥悟を見つめる。 「とぼけるのは止めておけ。君のやろうとしていることは、恩義ある私への背信行為だ。本来ならば法的手段に訴えてもいいことなんだよ。だが、君は私の大切な養女の弟だ。君の独立をなかったことにするだけで、穏便に済ませてやろうと言っているんだ」 祥悟はますます目を細めて、そっぽを向いている渡会を睨み付けた。どうやら自分の預かり知らない所で、違う思惑が進行していたらしい。 ……くっそめんどくせえだろ、これ。どういうことだっての。

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