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寄り添うかけら2

「でも、彼には今、私の力がどうしても必要な事情がある。涙を飲んで、私のすることを黙認せざるを得ないでしょうね」 「……なるほどな。あいつもとんだゲス野郎に、大事な雅紀を預けちまったわけか」 「ふふふ。残念でしたね。君の手持ちのカードはどれもお粗末だ。雅紀は救えませんよ。自分が抱くか、他の男たちに雅紀を抱かせるか、君の選択肢は2つに1つ。私はどちらでも構いません。楽しませてもらえれば満足ですからね」 暁は無言で、瀧田をねめつけた。瀧田は意に介さず 「さ、わかったら、食事をして、ちゃんと体力をたくわえておいてくださいね。一度や二度抱いたくらいでは、私は満足しませんよ。君の精が尽き果てるまで、私が命じれば何回でも、雅紀を悦ばせてあげてください」 「そんなことしたら、俺の体力以前に、雅紀の身体の方が壊れちまうぜ」 瀧田は首をすくめ 「それならそれで仕方ありません。雅紀はこれまでで一番お気に入りのお人形ですが、壊れてしまえば、また別のこを見つけるまでです」 「……あんた、本気で狂ってやがる。雅紀は人形じゃねえ。生身の人間だ」 「そうですか。でも、私にとっては、それはどうでもいいことですね」 暁は唇を噛みしめ、押し黙った。狂った人間にこれ以上正論を説いても、労力の無駄だ。 柱にかかっている年代物の時計をちらっと見た。 まだ朝の8時。 雅紀には気を失ったフリをさせて、時間稼ぎをしているが、嘘の演技が下手くそなアイツのことだ。そのうち見破られるだろう。 田澤社長に連絡を取りたいが、暁のスマホは夕べ目の前で、梶という男に水の中に浸けられた。 さて。どうするか。 黙りこんでしまった暁に、瀧田は満足顔で、 「食事は部屋に運ばせましょう。梶、その男を部屋へ連れていきなさい」 梶は暁の顔を見て、顎をしゃくってドアの方へ歩き出す。暁は首をすくめ、大人しく後に続いた。 暁が部屋に戻ると、ベッドの上のこんもりとした布団の山が、もぞもぞと動いた。 ……こら~じっとしてろって。起きてんのバレバレだろうが。 暁は内心ため息をつき、素知らぬ顔で椅子に腰をおろすと、かろうじて取り上げられずに済んだ煙草を、テーブルの上から取り1本くわえた。だがマッチがない。見回すと、壁際のデスクにご立派な灰皿とライターが置いてあった。 ふらふらと歩いていって、仕方なくライターで火をつける。オイルライター特有の臭いに、暁は顔をしかめた。 また、もぞもぞと布団の山が動く。 夕べ、雅紀に会った時、実に下手くそな演技をしていた。瀧田に脅迫されて、暁を遠ざけようと必死だったのだろうが、はすっぱな物言いをしていても声は震えていたし、じっと目を見つめるとゆらゆらと目線を泳がせ、しまいには耐えきれずに目を逸らした。あれでは猫の子一匹騙せまい。 そんな嘘のつけない素直な雅紀だからこそ、尚更愛おしいのだが、敵を欺くことは難しいだろう。 カメラがあるのを承知で、雅紀を抱いた。本当は、自分だけに見せてくれるあのエロ可愛さを、たとえ映像でも他人に見せたくなんかない。ましてや、あの変態野郎を喜ばせる為に、目の前で抱くなんて許しがたい。だいたい、Sexしてる無防備な姿を人前に晒して悦ぶ性癖は持ち合わせていないし、仕方なく晒すにしても、自分はなんとか耐えられるが、雅紀の心にまた深い傷を負わせることになる。かといって、自分が抱かなければ、他の男たちに無理矢理抱かれる。それだけは何としても避けたい。 ドアがノックされ、返事も待たすに開いた。いかにもな感じの給仕が、梶たちに付き添われて、ワゴンを押しながら入ってくる。布団の山は大人しくなった。 「お食事の用意をお持ちしました」 給仕はテキパキと、テーブルの上にワゴンの上のものを移し並べていく。 どこの高級ホテルの朝食だよっと突っ込みたくなる、豪華なFullbreakfastだった。 絞りたてのオレンジジュースに、ミルクに浸したポリッジ。大きなプレートにはベーコンエッグ、ソーセージ、ベイクドビーンズ、トマトとマッシュルームは軽くソテーしてあり、トーストの他に、焼きたてのスコーンもあった。 「おっ。うまそ~」 大好物のスコーンを目にして、暁はウキウキと椅子に腰をおろした。傍らの梶が呆れ顔で暁を見下ろし 「お前、変わってるな。豪胆なんだか、無神経なだけなんだか……。捕らわれて、おかしなショーまで要求されてて、その余裕はどっからくるんだ?」 暁は早速ジュースを飲み、ベーコンエッグをつつきながら、 「腹が減っては戦は出来ねえからな。おっ。すげーな、この分厚いベーコン。スコーンは焼きたてですよね?」 給仕は暁の質問に、にっこり微笑み、 「はい。当家の料理人が先ほど焼いたばかりのものをお持ちしました」 暁は嬉しそうにスコーンを2つに割ると、添えられているクロテッドクリームとイチゴジャムを載せて、口に頬張った。

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