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番外編『愛すべき贈り物』161
橘が言う『彼女』が誰を指しているのかは分かる。分からないのは、こいつが言外に匂わせている言葉の裏だ。なんでこいつは、こんな嫌な笑い方をしているんだ?
「あの娘は必死で否定していたが、やはり図星なんだな。まったく……やはり君はとんだトラブルメーカーだ。あれの言っていたことは本当だったのだな」
橘はそう言って大きなため息をついた。
……何言ってんだよ、こいつ? 否定してたって誰が? 何をだよ? は? 意味わかんねーし。
「さっきから、何言ってんだよ。勝手に話進めんな」
「君のような男を外に出すなんて、里沙にとっては自殺行為でしかない。余計なことをしでかさないように、一生こちら側に置いて監視しないとな」
「あのさ、何言っての?あんた。持って回った言い方ばっかしてねえで、はっきり言えよっ。なんで俺が……」
橘はつかつかと歩み寄ると、祥悟を見下ろした。
「部外者の前で言えることじゃないだろう?だから一対一で話したいと言ったのだ」
自分を見下ろす橘の顔に嫌な笑みが浮かんでいる。祥悟は口を噤み、怪訝な顔で橘を睨みあげた。
「クライアントへの交渉も含めて、詳しい話は、向こうに帰ってから事務所でしようか。祥悟くん。私の話はそれだけだ」
橘は踵を返してドアに向かいかけ、ふと足を止めた。
「渡会。おまえはここに残って祥悟の監視をしていろ。里沙は私が連れて帰る」
そう言い残して再びドアに向かう橘に、祥悟は立ち上がった。
「待てよ。里沙は行かせない。あいつは俺と一緒に……」
橘はくるっと振り返ると
「今後、里沙には近づくな。これ以上あの娘を傷つけるなら、私もそれなりのことをしないといけないぞ?」
橘の言うことは一方的過ぎて、まったく意味が分からない。
……つーか、人の話を聞けっつーの。なんなの、こいつ。頭おかしいのかよ?
「橘さん。失礼ですが、ちょっといいですか?」
突っかかりかけた祥悟を制して、暁が間に入った。橘は不愉快そうに眉をあげ
「出しゃばるのは止めなさい。君には関係のないことだ」
「分かっています。俺は部外者だ。ただ……今のお話、何かいろいろと誤解があるような気がするんですよね。もう少し祥悟くんにも分かるように話をしませんか?」
「誤解?……何を言ってるんだ。何も知らないくせに余計な口を挟むな」
「いや。俺は今回、ストーカーの件で依頼を受けてる者ですけどね、それ以前に、里沙さんや祥悟くんとは、長年親しくさせてもらってる友人でもある。今の話は、ちょっと貴方の独りよがり過ぎて、どうにも腑に落ちないんですよね」
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